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「プロデュースは心のケアが三分の一」プロデューサー木﨑賢治と島賢治、オンラインカウンセリングcotree西岡恵子の特別鼎談

インタビュー スペシャルインタビュー PR

アーティストは大変なプレッシャーのなか音楽を作っている。寄り添うスタッフも厳しい競争下のもと働いている。だから素晴らしい音楽を届けるためにはこころのマネジメントが大事になってくるという。今回は音楽と心のケアの問題について、沢田研二、吉川晃司、槇原敬之、TRICERATOPS、BUMP OF CHICKENを手掛けてきたプロデューサー木﨑賢治氏(写真左)、音楽業界とアーティスト向けオンラインカウンセリングSottoを立ち上げた島賢治氏(写真右)と西岡恵子氏(写真中央)の三人で語ってもらった。

(インタビュアー: Musicman編集長 榎本幹朗 取材日:2024年7月16日)

プロフィール

木﨑賢治(きざき けんじ)


音楽プロデューサー。1946 年、東京都生まれ。東京外国語大学フランス語学科卒業。

渡辺音楽出版(株)で、アグネス・チャン、沢田研二、山下久美子、大澤誉志幸、吉川晃司などの制作を手がけ、独立。その後、槇原敬之、TRICERATOPS、BUMP OF CHICKENなどのプロデュースをし、数多くのヒット曲を生み出す。

著書:「プロデュースの基本」(集英社インターナショナル)

島賢治(しま けんじ)


株式会社fearless CEO / Executive Producer。Sony Music、Amuse、Universal Musicなどの 大手レコード会社や音楽事務所にて、様々なジャンルのアーティストのマネジメント、A&R、マーケティング・プロモーションを担当。

新人発掘や、K-POPを含む海外アーティストの日本におけるディストリビューションにも携わる。2016年に独立し、2017年に株式会社フィアレスを設立。音楽業界における革新的なベンチャー企業として、アーティストのトータルコーディネーションを提供。マネジメントからコンセプトの策定、マネタイズ設計、楽曲やライブの制作、プロモーション、至るまで、業務領域を限定せず、アーティストビジネスの実現に向けて統合的なエグゼキューションを行っている。

西岡恵子(にしおか けいこ)


株式会社cotree代表取締役。同志社大学卒業後、森永製菓株式会社、株式会社サイバーエージェントを経て、コネヒト株式会社に参画。ママ向けアプリの事業責任者として事業拡大から組織構築までおこなう。さまざまな組織規模の事業グロースを手がけ、株式会社cotreeへ参画し、2021年に代表取締役に就任。一般社団法人フェムテック協会の顧問等の活動へも従事。

 

アーティストのプロデュースは三分の一が心のケア

──数々の著名アーティストをプロデュースしてきた木﨑さんですが、ご著書(「プロデュースの基本」インターナショナル新書)を読み返していると、アーティストの心のマネジメントについて文字を割いていますね。

木﨑賢治:今、二冊目を書いています。

──楽しみにしています。島さんと木﨑さんはどのような関係で?

島賢治(株式会社フィアレス代表):以前から木﨑さんとは交流がありましたが 「これからSottoという音楽業界向けのオンラインカウンセリングサービスを展開します」ということを木﨑さんに報告したときに、心の健康をキープすることがアーティストやスタッフのパフォーマンスにとても大事だということが話題になりました。

木﨑:そういう相談をいろんな人から受けているので「だったらこのインタビューに参加したら話が早いかな」と思って。

島:それで今回、来ていただいています。

木﨑:アーティストのプロデュースを生業にしていると、仕事の三分の一ぐらいはメンタルケアに近いです。大学生ぐらいの若い子が自分で曲を作ってほめられたり、けなされたり、傷ついたりと、フロントに立ってやっている人の大変さは、経験しないとなかなか分からない。

──僕も作家なので、昨晩もパッと目が覚めて「次の本のテーマ、どうやったら受け入れられる?」と頭を抱えたのですが、モノ創りのために自分を掘り下げる作業って孤独で、根本的なところはなかなか相談できないから、気をつけないと病んでくるんですよね。

木﨑:昔の人の方がたぶん強かったです。僕らの世代は「おまえのここがダメなんだよ!」と非難する会話が当たり前で、それは全てが否定の意味では無かったんですが。

島:活を入れる感じですね。

木﨑:若い頃は「木﨑、おまえがリズムのことをもっと分かっていればな。詞のことが分かっていればな」という風に言ってくるのが普通でした。でも私はそこまで言うタイプじゃなくて、その意味で今の人に近かったかもしれない。だから、そう言われて傷ついた気持ちは覚えていて、そのことが自分を成長させてくれました。

だから、言うときは言わなくちゃいけないと思っています。沢田研二、吉川晃司、大澤誉志幸。あの時代の人たちは打たれ強かったですね。スマホ以降にデビューしたアーティストになると、なんだか打たれ弱くなった。

──2000年前後あたりの世代は?

木﨑:あの辺は中間ぐらい。あの辺まではそんなに弱くは無いですね。それ以降、スマホが普及して、一人っ子も増えたからかな。対面でコミュニケーションする能力が落ちた気がする。それ以前の世代は会うと、起こったことをぜんぶ言う。会う前に起こった嬉しかったこと、悲しかったこと、感動したこと、興味のあることを打ち合わせの前に喋るんですね。

島:大事ですよね。

木﨑:その下の世代はあまり喋らない。なんで喋らないんだろう?感じてないわけが無い。訊くと話すんだけど、閉ざしちゃっている子が多い。

──書く前に家族や友人に喋って「これは響くんだ。これはダメか」と僕も壁打ちしてますが、それが出来ないのは辛いかもしれません。

 

プレッシャーで心が折れてしまうアーティストも

──島さんはレーベル出身なんですよね?

島:はい。ソニー・ミュージックでプロモーターとA&Rをやった後、アミューズでマネジメントを経験して、ユニバーサル・ミュージックでプロデューサーをやってから起業しました。

──担当されたアーティストさんは?

島:主に邦楽やK-POPアーティストのプロモーションやプロデュースに携わっていました。 

──島さんのフィアレス社は今回のメンタルヘルスケア事業のほか、レーベル事業やアーティストのマネジメントなどを手掛けていらっしゃいますが、起業したきっかけは?

島:SNS時代に入ってスピード感が重視される中で、自分がアーティストと一緒に作品を作っていきたかったこと。そのために自分自身が責任を取れる環境の中でアーティストと絆を深めてやっていきたかったのが独立した理由です。

▲島賢治さん(アーティスト プロデューサー/フィアレス社代表)

──音楽会社とアーティストにオンライン・カウンセリングを提供するSottoを立ち上げた動機もメジャーレーベルの社員時代にあった?

島:はい。この業界は競争意識が高く、常に結果を求められます。売行き、知名度、ライブの動員数などプレッシャーはスタッフだけではなく、アーティスト自身の心も折れてしまうケースを幾度となく見てきました。

スタッフは競争相手の同僚に話せない悩みを抱えているのですが、アーティストや家族には直接相談するのは難しいことが多く、アーティストも「逆もまたしかり」です。だから「信頼できる第三者に相談できる環境を用意することが必要」と当時から考えていました。

──それで起業後に西岡さんと会って一緒にSottoを立ち上げた訳ですね。最近、音楽業界の各所でカウンセリングを導入した話を聞いていたので、よいタイミングだったかも知れません。

 

アーティストは、まず褒めることが大切

──BUMP OF CHICKENがメジャーデビューする前後に僕は現場にいて時々、藤原さんとすれ違っていたんですが、いつも思い詰めた顔をしているのを見て「やっぱりあれだけの音楽を作るのって本当にプレッシャーかかるんだな」と。木﨑さんは彼らの最初の頃から関わっていたのですか?

木﨑:TRICERATOPSのデビューを手掛けていた時に、下北沢のCLUB251のイベントに彼らが出るので見に行ったら、すごい騒いでいる男の子たちがいて。「Tシャツがかわいいな」と思って眺めていました。

その日はトライセラを観てすぐ帰ったんですが、後で「あの子たち何なの?」と聞いたらトライセラの後に出演していて、そのビデオを見せてもらった。「会いたい」と思って、会ってみました。曲がすごく良かったんですけど、まだあまり演奏が上手くなかったです。

──それは「天体観測」よりも前?

木﨑:ずっと前。二曲入ったものを自分たちで刷って500円で売っていて、それをハイラインレコーズ(下北沢のショップ兼インディーズレーベル)が気に入ってたので、置いてもらいました。事務所を先に決めた方がいいかなと思って、仲の良かったHIPLANDへメンバーを連れていきました。

実はその前に別の有名な事務所の人がライブに来てくれたんですけど、そこの方が初見でメンバーにネガティブな感想を言って嫌われてしまいました。

僕は常日頃からまずはアーティストの良いところを褒めてあげることを大切にしていました。アーティストになる子たちって大抵、勉強が出来なかったり、友達がいなかったりで、やっと音楽に出会えてのめり込んでいる感じですね。学校では先生からあれこれ言われていた子たちだから、良いところを見つけて褒めてあげるとすごくいい笑顔になります。

▲木﨑賢治さん(音楽プロデューサー/ブリッジ代表)

木﨑:トライセラもそう。和田くんは小中が玉川学園だったけど、勉強せずギターを毎日十時間以上練習してたから高校に上がれなくて、文化学院に行きました。自由な校風で、そこでPoliceとか古い洋楽のカヴァー・バンドを始めたんだけど、学校の友だちはそういう音楽を聴いていないから誰も褒めてくれなかった感じでした。

そこを褒めてあげると、少しずつ心を開いてくれて、コミュニケーションが始まりました。「音楽で喰っていけるのかな。アマチュアでいいかな」と不安を感じてやっている時に、褒めてあげるとだんだんライブも上手くいくようになって、お客さんも付いてくると「これでやれるかな」と気持ちも変わってきます。

 

褒めて信頼関係が出来てからダメ出しする

木﨑:バンプもそうだった。曲は良いんだけど演奏が下手だから、ライブで歌が聴こえなかったんですね。だから良いところを認めてあげて、段々信頼関係ができてきたら、初めてここがもう少しこうなるといいかもというようにしてました。

まず、その人がどれくらい自信を持ってやっているか。曲作り、歌詞作り、パフォーマンス。あと容姿に自信が無い人もいっぱいいて、槇原敬之に初めて会いに行ったら「自分はこんなだから、あまり人前に出たくないです」と彼は言った。

私は「そんなことは気にしないで良いよ」「東京に出ておいでよ。ルックスはセンスが良ければいいんだよ」とアドバイスした。彼はそれを忠実に守って服装にすごく気を付けるようになった。

元々、歌詞と曲はすごく良かったです。その頃、イカ天ブーム、バンドブームだったんだけど真逆の音楽を彼はやっていた。真逆というのが大事だと思っていて、たいてい真逆も正しいんです。。ゴルフの打ち方も野球の打ち方もと同じだね。日本人にとって正解の打ち方は、アメリカ人の逆のことが多いんですね。

だから私は彼に「東京に出ておいでよ」と言った。最初からプロでやろうと思っている人はあまりいないかもしれないですね。

でも、売れてくるとまた違う不安がいっぱい出てくる。すごく売れたら次のアルバムを作るのが怖くなっちゃう。新しいアルバムを聴いて「あいつも終わったよな」と言われるのが怖くて曲が作れなくなっちゃう。

今度はそこをケアする。「大丈夫だよ」といろいろ言ってあげる。最初は悪態をついてくる。「どうやって作ったか、思い出せない。覚えてないんですよ!」と言うんだけど、その感覚分かるんですよ。そのアルバムを作ったときは凄い入り込んで作っているから。

ものすごく難しい数学の問題を解いたけど一年経ったらどうやって解いたのか思い出せないみたいな感じで音楽もやっているんですよね。ジェフ・ベックも同じようなことを言ってました。

すごいネガティブな言葉をばあっと並べるので、「わかった。出来なかったら出来ないでいいよ。社長に僕がちゃんと言うからね」と話すと落ち着いたりします。

──こころのケアですね。

 

アーティストの「生活感」を守るのが大事

木﨑:ツアーをずっと周ってくるとだいたい人間性が変わっているんですよね。人前で拍手されて、どこにいるかもわからなくなっちゃう。

島:宙に浮いている感じになっちゃいますよね。

木﨑:新幹線に乗って、バスが迎えに来て、会場に行って、弁当食べて、リハーサルして、緊張してライブに出て、いっぱい泊手されて、ホテルに帰るという毎日が続くと「生活」が全く無いんですね。喋ることもなくなってきて、気持ちが荒れていることが多くなるんですね。バンドだとツアーが終わる頃には仲悪くなってたりして「解散だ!」みたいな喧嘩も始まったり。

──ストレスがかかって?

木﨑:プレッシャーと、すごい拍手されることと、生活感が無いことが重なると詞が書けなくなることが多いですね。生活感の中から言葉を考えて作っているので。ツアーから帰ってきたばかりに書いた詞は少し荒んだ感じがありますね。でも、それを否定したらいけなくて「良いの出来たじゃん」とまず良いところを見つけてあげる。でも「これが出来れば大丈夫じゃない?」と励ましているうちに、だんだんコンビニへ自分で買い物に行ったりして生活感が戻って来る。

歌詞って生活の中で感じたことから書くんだけど、ツアーに行ってると生活感がなくなっちゃうんですよね。

──非日常の極限にいるから?

木﨑:そう。だから感じる力を保ったままだとツアーできないと思います。会社員と同じで、どこかで自分を無くす必要がある。毎日定刻で会社に行けるのは自分の感情に逆らったことをやっているんです。

感情に素直に生きるピュアな人だったら、電車に乗ろうとして可愛い女の子を見たら追いかけていって会社のことを忘れちゃう。会社員はそこを諦めて会社に行く。そうやっているうちに感じる力がどんどん劣化していく。

アーティストは生活のなかで何かを感じて、感情を忘れずにいて、それが歌になる。そういう生活をキープしてあげる。私は、自分で曲を作る人を中心にプロデュースしているので、それが大事な仕事。

──すごく納得のいく話です。

 

アーティストは24時間、アーティストなのでスタッフも大変

──島さんは、アーティスト向けと音楽業界のスタッフ向け、どちらからSottoを考え始めたのですか?

島:最初、コーポレート側のコミュニケーションのなかで「こういうのがあったらいいな」と考え出したのですが、音楽業界のスタッフはアーティストと二人三脚なので「結局、そこはイコールなのではないか」と途中で気づきました。

──木﨑さんがおっしゃったような、どこかで非日常的な仕事をしているというのは音楽業界のスタッフもありますよね。

島:そうですね。例えばアーティストからの相談は深夜に来ることが多い。

──ということはふだん、お酒は飲めない?

島:あるいは、お酒を飲んでいる時でも対応することで信用されるようになって、アーティストにとって必要な信頼関係が出来てきたりします。それでスタッフも不規則な生活になりがちです。

木﨑:アーティストは24時間、アーティストをやっているからね。だからマネージャーが一番、たいへん。マネージャーも24時間、マネージャーをやっている。

島:それでもスタッフは「どこかで買い物行こうかな」とか、会食をしたりと息抜きを挟んでいけるんですが、アーティストは寝ても覚めてもずっとアーティストで、むしろそういう人ほど結果を出しています。

──アーティストさんと話す時、島さんはスイッチを切り替える?

島:はい。スタッフがスイッチをオフっていると、24時間スイッチを入れっぱなしのアーティストからすると納得がいかないでしょうから。

 

アーティストによって「地雷」が違う

──加えて音楽業界のスタッフは他の業界と違って、自分たちもクリエイティブなことを考え続けなきゃいけないですよね?

木﨑:例えばスタッフがライブを見た後でやらなくちゃいけないことは、感想を伝えることです。その感想も、たくさん人が来ている中、一言二言で的を得たことを言えるかどうか。

何にも言わないスタッフもいるんだけど、それじゃいないのと同じ。何のためにいるかというと、感じたことをアーティストに伝えることで、アーティストが希望を持てたり、自信を持てたりできる何かヒントになる一言二言を言えるかどうかが大切ですね。

そして褒めてあげることと、「もうちょっとこうやったら良くなると思うんだけど」というのを相手のプライドを傷つけず、これまでの実績を尊重しながら言葉を選んで伝える。

島:すごく分かります。言葉のチョイスですね。

木﨑:一度、あるバンドのベーシストに言われたことがあるんだけど「今日のベース、よかったよ」と伝えたら「木﨑さんのコメント、具体的じゃないんだけど」って。僕はちょっとムッとして(笑)。それで具体的に「ベースの休符の使い方がすごく良かった」と言ったら彼、ニカッっと笑って。ちょうど褒めてもらいたいところを褒めてあげると信頼関係が出来る。

だけど、「そこじゃないんだけどな」というところを褒めると、地雷を踏む。

島:歴史の地雷を時々踏みます。「次こういうの、やった方が良いんじゃないの?」「もうやってます!」という(笑)。

木﨑:アーティストによって気になっているところも違うからね。そのアーティストは何が好きで何が嫌いか、覚えておかないといけませんね。あるアーティストが「誕生日は絶対、ライブやりたくない」と言ってたのをマネージャーが忘れて入れてしまって、結局キャンセルになってしまいました。数年後、また同じことがあってアーティストがキレました。

僕は覚えたんですけど、マネージャーの人はなぜか忘れてしまっていたんですね。

──音楽業界ってアーティストと向き合うのは真剣勝負だし、会社のなかでは数字に責任を持つプレッシャーがある。どんな仕事だって大変かもしれませんが、独特の大変さがありますよね。

島:おっしゃる通りです。僕らプロデュースの仕事は、アーティスト側のやりたいことと、コーポレート側の売上やバックオフィスを総合的に判断して進めていく役割です。

僕らのようなベンチャーだとアーティスト側とコーポレート側の振り幅を比較的身軽に、自由に行き来できるのですが、大手レーベルに勤めていた頃は四半期ベースで動かないといけなかった。

たとえば「12月が決算だからベストアルバムはそこ」と決まっていると逆に数字が読みにくい。「本当は投資のタイミングはここで、回収のタイミングはあそこなのに」と感じていても、会社の四半期決算の都合があって融通が利かないストレスがありました。

自己完結できるベンチャーを起業してやっているのは、木﨑さんだったり、アーティストさんだったり、他のみんながやりやすい環境を作りたかったからというのがあります。

 

スタッフに言えない悩みもアーティストにはある

──音楽業界でSottoの評判はいかがでしょうか?

島:ローンチしたばかりなのでレコード会社やプロダクションにアプローチしているところです。

──なるほど。西岡さんの会社(cotree)はアーティストさんやクリエイターさん、音楽業界人もクライアントに元々いらしたのですか?

西岡:cotreeを使ったと発信してくださってる方はいらっしゃいますが、「まだまだ届いていないな」という課題感を持っていたので今回の島さんとの取り組み(Sotto)で必要な人に届けたいと強く思っています。芸能人の自殺など衝撃的なニュースがあるとその情報を得た周囲への影響もすごく大きい…。

──いやあ、僕も親友が自殺して、そこそこ売れてる作曲家だったからニュースで知った。ショックで、「いつも話してくれるのに、なんで何も言わなかったんだ」とその時は頭に来たんですけど、今振り返ると「知っている相手だからこそ話せないこともあるよな」って。

木﨑:ありますね。

島:僕も少し携わっていたアーティストさんが自殺してしまったことがあったのですが、自分の悩みまでは話さないアーティストさんも結構いるんですよ。深夜に深刻なLINEをしてくる段階はまだマシな方で、それを超えた時ってLINEすら無くなって急に逝ってしまう。

やっぱり完璧を求める人ほど周囲に相談しにくい。そのためにもこういった第三者に話せる場が本当に必要なんだなと思っています。

──そうですね。クリエィティブな仕事をしている人は、歯医者さんに定期的に行く感覚でカウンセリングを使うといいのかもしれませんね。

 

24時間対応のオンラインカウンセリング

──西岡さんの運営するcotree社では、若いアーティストたちのカウンセリングをもう引き受けているんですよね?

西岡恵子(株式会社cotree代表):はい。個人や企業様向けにオンラインカウンセリングを広く提供してきたのですが、今回、フィアレスさんと一緒に音楽業界向けにSottoというサービスを立ち上げました。

オンラインカウンセリングの利用者は20代から40代の女性が多くなっています。比較的若い人の方がカウンセリングに抵抗が少なく使っていただいており、カウンセリングに対しての利用ハードルは低くなってきていると感じています。

木﨑:女性の方がカウンセラーに話しやすい?

西岡:心に抱えている悩みを人に話すという行為は女性の方がハードルは低いと感じています。

▲西岡恵子さん(cotree社代表)

──男女問わずクリエィティブな悩みはなかなか周囲に話しづらいので、話せる相手がいると助かりますね。Sottoはスマホアプリなんですか?

西岡:いえ、スマホとパソコンからどちらでも使えるWebサービスです。ご自身でカウンセラーを選ぶこともできますし、事前アンケートに答えていただくとおすすめのカウンセラーが出てきてきますので、その中から選んでいただき予約することも出来ます。

──カウンセリングはリモートとリアルの両方?

西岡:基本的には全部オンラインです。Zoomを活用したビデオ電話、お電話の他、テキストでのカウンセリングも提供しています。

──スマホ世代だとオンラインやテキストの方が相談しやすいんですかね?

西岡:比較的若い方がテキストのカウンセリングを好んで使ってくれています。ビデオ電話でも画面はオフや、名前をふせてご利用いただくこともあり、匿名性が高いからこそ安心してご相談いただけるようになっています。

──アーティストさんも匿名でカウンセリングを?

西岡:匿名でご利用いただいていますので私たち側も把握しきれておりませんが、アーティストや芸能人の方が「cotreeのカウンセリングを使ってよかった」という発信をSNSや著書等でしていただいております。

──カジュアルに使っていただけるのがいいですね。

西岡:そうですね。24時間利用可能ですので、ストレスが湧き上がる深夜の時間帯にも多くご利用いただいております。

──それはありがたいな。頭を抱えるのは大体、深夜ですもんね。

西岡:孤独を感じやすい時間でもあるので、そういうとき第三の居場所としてカウンセリングをご利用いただくのもよいかと。

──いや、昨晩目が覚めて頭を抱えたというのはですね・・・(略)。これ、本を読んで下さっている人には逆に喋れないんですよ。

西岡:カウンセラーと対話し、もやもやを紐解き自己受容をしていくことは、非常に大事なプロセスだなと思っています。

カウンセリングはメンタル不調に陥った方のみが悩みを吐き出す場所と捉えられている方もいますが、それだけではなく、まさに今、榎本さんが話したように自分ならではの感情をどう取り扱うか、カウンセラーとの対話を通じて整理し、自分らしさを認識していく。そういったことが不調を改善するだけでなく、自分の足で前に進んでいくパワーにもなっていくんじゃないかと思っています。

 

「ヤバい状態」は自分じゃ気づかない

──僕、コロナ禍で歯医者の定期クリーニングをサボったらえらい目にあったんですが(笑)。カウンセリングって例えば月一回ぐらいが適切ですか?

西岡:お悩みや状況によりますが、三、四週間に一度目安で、一度ではなく継続する前提で受けていただけると。

──ふだん、喋っていると本当に深刻になったときも話しやすいかも。

島:何より気づかないことがある。

──ヤバい段階に入っていることが自分じゃ分からないものです。

島:自分の場合、正義感や責任感でメンタルが疲れているのを無視し勝ち。「あれ?肌が荒れてる。咳が増えた」と体が訴えているのに、心にかかっているプレッシャーに気づけない。

私がこのサービスをやろうと思ったきっかけがあるのですが、体の異変があるところに当てると熱くなる機械があって「ここが熱くなるのは鬱病ですよ」と言われたのですが、激アツだったんですよ(笑)。

それで知人のカウンセラーのところへ行って第三者の視点で自己分析したら「今、心がヤバいんだ」と気づけた。アーティストであってもスタッフであっても、何か目標を達成するのにプレッシャーがかかっている時、心の部分というのは本当に他人から言ってもらわないと気づけないことが往々にしてある。

第三者が良いと思うのは、どうしてもアーティストや上司、同僚に直接、相談しにくいことってたくさんあるからです。競争意識のなかやっている以上、弱い部分を見せにくい。今は会社を経営していますが、トップの立場だとスタッフに相談できないことも出てくる。

だからSottoやcotreeのような第三者の機関をフルに活用して、ちゃんと心のケアをしていくのが自分自身のパフォーマンス向上に繋がっていくのではないかと思うのです。

▲左から木﨑賢治さん(音楽プロデューサー/ブリッジ代表)、西岡恵子さん(オンラインカウンセリングサービス cotree社代表)、島賢治さん(アーティスト プロデューサー/フィアレス社代表)

 

カウンセリングを定期検診のように使ってもらえれば

──西岡さんは今の仕事はどうして始めたのですか?

西岡:私は二代目の代表で会社を引き継いで十期目を迎えるのですが元々、私自身も幼少期あまり良いとは言えない環境で育ったり、いろいろ抱えて生きてきたところがあったのでメンタルヘルスケアの重要性をとても感じながらこの事業をさせていただいてます。

──そういうご経験があった上で運営されているのですね。実は僕も二十年前、しんどいことがあってひどい鬱になってカウンセリングを受けたことがあるのですが、そのとき気づいたのは「鬱って特別な病気じゃなくて心の風邪みたいなもので、誰でもなるものだ」と。

たかが風邪でも放っておいたら気管支炎になって、肺炎になって最悪、死んでしまうこともあるけど、軽いうちに治したほうがいいですね。

西岡:近所の病院とかジムへ行くぐらい気軽な気持ちで日々のメンテナンスとしてカウンセリングを生活に挟んでもらえると、日本の生きづらさも変わっていくんじゃないかなと思います。

島:健康診断ぐらいライトに受けてもらえれば。

木﨑:自分はみんなほど鬱になったことないと思う。いろいろたいへんな時期はあったけど。

島:いやいや、ならない訳がないプレッシャーのお仕事だと思うんですが(笑)。

木﨑:何かあっても二、三日したら忘れちゃう。

島:それが水底の瘧のように蓄積されていくんですよ。

▲島賢治さん(アーティスト プロデューサー/フィアレス社代表)

木﨑:二十代の頃、十二指腸潰瘍にはなったね。仕事をやり始めたときにストレスをすごい感じて。それから「こんなことで病気になるのは嫌だな」と思って「どうにかなるだろう」と考えるようにして、ストレスを感じたときは深呼吸するようにしてます。そうすると血流はよくなるから。中村天風という人の本を読んで。

──読んだことあります。

木﨑:あの人の考え方、いいなと思って。そしたらそれ以降、あんまりそういうこと無いんだよね。

──いい考え方を見つけるのってとても大事ですよね。

 

「あなたはどんな人間になりたいですか?」

木﨑:あと思うのは日本人はどんな仕事をやりたいかという目標はあるんだけど、どんな人になりたいかというのが無さ過ぎるんじゃないかな。「強い男になりたい」「優しい人になりたい」「誰かの役に立つ人間でありたい」というような目標が無いと、仕事でなりたいものになれなかったり、上手くいかなかったりすると目標を失ってしまい、かなり落ち込んでしまいます。

ウチの子、中3の双子なんですけどその一人に「ねえ、どんな人間になりたいの?」と訊いたんです。そうしたら「優しくて思いやりのある人間」と答えたので、これは大丈夫だな、と(笑)。「パイロットになりたい」とか、そういうことも言ってるんだけど、それだけだとパイロットになれなかったとき、すごい落ち込んじゃいそうですよね。

だから、なりたい仕事がアーティストでもいいんですけど、目標が仕事だけで人間としてどうなりたいというのが無いと、落ち込んでしまいます。

▲木﨑賢治さん(音楽プロデューサー/ブリッジ代表)

──大事ですね。西岡さんが仕事を通じて現代日本について感じていることはありますか?

西岡:そうですね。自分主語で語る若い子がとても少ないと感じています。社会主語、組織主語で語る。今まで日本は、GDPや健康寿命を伸ばすことで国を豊かにしてゆくのが主だったという背景もあってか、なかなか社会から個人主語に切り替わっていないように感じています。周りの期待にどう答えるのか、周りから浮かないようにするにはどうしたらいいかという思考が強い子も多く、「自分自身がどんな人間でありたいのか」というのを問われると答えられない人がすごく多い。

木﨑:あとウチの子供見てると、知っていることと知らないことを分けてて、知らないことは「分かんない」で終わっちゃう。「考えてみたら?」「想像してみたら?」と促しても想像できなくてGoogleで調べる。

紙の時代は知らないことを調べるのに時間がかかったから、知るまでに「こんな意味かな?」と想像していた。今は全部スマホだからカンが働かないんじゃないかな。その点はAIと一緒かな。それだと知識だけの集合になっちゃう。

昔、マイアミ・サウンド・マシーンというバンドのグロリア・エステファンがある政治的なことについての質問を受けた時に「考えたこともないし、分からないわ。でもちょっと待って」と言って、今まで自分が知っていることから考えていって、ちゃんと自分の考えを述べてました。自分で考える習慣が出来ているんですね。

そういうふうに出来ないと、ただの知識の集合体で、新しいものが作れなくなると感じてます。

──iPhoneが誕生した時、近い議論がアメリカでありました。「スマホが普及すると人間が受動的になって、パソコン世代よりモノづくりの能力が落ちるのではないか」と。紙やテレビの世代と同様に、スマホ時代特有の人間性も良し悪しが当然あるでしょうね。

 

海外では大物アーティストがメンタルヘルスについて歌う

──カウンセリングは日本で市民権を得つつあるのですか?

西岡:「コロナ鬱」がメディアに取り上げられて以降、オンラインでのカウンセリングを受ける人が増え、だいぶ環境が変わったと感じてはいますが、まだ市民権を得るところまで来ていません。

──あの時期、「自分が特別じゃなくて、みんな同じように悩んでいるんだ」となったのは大きかったかもしれませんね。日本の音楽業界にカウンセリングが普及するにあたって課題というのは?

島:健康診断のようにライトな形で活用してもらいたいのですが、まだ特別感があります。海外だとBTSやビリー・アイリッシュ、レディー・ガガがメンタルヘルスについて歌っているのですが、日本のインフルエンサーからメンタルヘルスに関する発信がまだ弱いのも課題のひとつです。

それと日本の音楽業界でよく遭遇する反応で「アーティストのカウンセリング?それは俺たちスタッフの仕事では?」というのがあります。たとえば木﨑さんがお話されたプロデュースの仕事はアーティストのケアとほとんどイコールであるのは間違いありません。

私たちがSottoを立ち上げたのは「アーティストがもっとライトに使える第三者の相談窓口も必要なのではないか」という課題意識からです。

──先にも出ましたが、アーティストさんもディレクターやマネージャーに話せないことはいっぱいあると思うし、逆もまたしかりですよね。

島:木﨑さんが冒頭でお話されたように、僕らより上の世代は切磋琢磨の厳しいなか育ってきたので伝わりにくい側面もあります。私は43歳なのですが、その下の世代からは変化を感じます。アーティストの考え方、音楽業界人の考え方も時代時代で変わっていくので、こうした変化の流れのなかで、メンタルケアをテーマにして下さるアーティストさんが日本でも出てくるかなと思います。

──今(収録時)、こっちのけんとさんの「はいよろこんで」がバズってますが、メンタルケアがテーマの曲ですね。

 

締切とメンタルケア

木﨑:今、若い会社が増えてきていると思う。ITの仕事をやっていた人たちが音楽業界に来ている。SNSの使い方とかはすごく分かっているだけど、そこでメンタルがやられちゃっているのも結構いますね。

経験も少なくて、急にすごく売れてマネージャーを付けるんだけど、マネージャーがまたお母さんが子供に接するみたいな感じで高圧的に面倒を見ていたりすると、アーティストがプレッシャーを感じてギクシャクしてしまうとかね。アーティストってどういう生き物か知らない人がマネージャーをやるとやっぱりいろいろ起こってくるみたい。

今、興味を持っているアーティストが、そういう若い人のやっている事務所だったんです。心のケアに関してはその人たちも疎くて、システマチックに「これだけスケジュール空けたんだから、ここで曲を作った下さい」と言うんだけど、夏休みの宿題みたいなもので、だいたい追い詰められないとやらないし、また出来ない時はいくら時間があっても出来ないものです。そういうものを作る人のことを理解して接していないとトラブルが限りなく起こります。

──執筆の時よく思うんですが、クリエィティブって選択肢が無限だから「もっといいのがあるんじゃないか」となって、締切が近づかないと絞れない。

決して面倒くさいからとか、サボっているからそうなる訳ではないつもりなのですが(笑)、やったことが無いとそこら辺の事情が分からないかも。

木﨑:じぶんも今、本を書いているんだけど他の仕事で一ヶ月空いちゃうと「何を言おうとしてたんだっけ?」というところまで戻ってしまって、それで少し始めていくうちに集中力が戻ってきて、言いたいことがたくさん溢れてきて。

多分、アーティストもそうで、集中力って何かに突き動かされて高まる。自分の意志だけじゃないと思うんですよね。

──自分を追い込む作業というのがどうしても必要ですよね。締切とかも活用して意図的に心へ負荷をかけていく。だからこそ定期的にメンタルケアのサービスを利用するのがいいのかもしれない。

木﨑:カウンセリングってもしかしたら息抜きなのかもしれませんね。会社とアーティストはだいたい揉めるから何か問題があると分かるけど、今だと一人でやっているアーティストも増えてきました。

──DIYアーティストが増えましたね。

木﨑:そういう人が問題を抱えていても、本人が気づかない場合が多いんじゃないかな。だから必要ですね。一人でずっとやってた子がいて、僕の知り合いが入ったら問題をいっぱい抱え込んでいることが分かって、やっぱり頼ってくる。

悩みすぎるとアルファ波が出ないから曲が書けなくなる

──昔、「身のまわりでトラブルが起きてるからこうなっている訳で、カウンセラーに相談したって問題の答えを貰えるわけがない」と思ってギリギリまで利用しなかったのですが、こういう誤解って音楽業界に限らずあるのかなと思います。

木﨑:問題は自分で解決するしかないんだけど、意識が変わって解決できたりすることはあるんじゃないですかね。

──そのとおりです。

▲西岡恵子さん(オンラインカウンセリングサービス cotree社代表)

西岡:カウンセリングを受けて心が整うと人生がマイルドになるんじゃないかと思う方もいると思います。特にクリエィティブな業界だと「マイルドになるのが表現力にネガティブに影響するのかもしれない」という捉え方もあるかもしれません。

私たちカウンセリングを提供する側からすると、過去のトラウマを解決したり木﨑さんがおっしゃった日常の感覚を取り戻していくプロセスになるので、むしろマイルドになるというよりは、強烈な個性を認識するきっかけになるんじゃないかと感じています。

──そうですね。そういうことを人に話す機会が減った世代にいるのなら、話すことで自分を掘り下げていける。

木﨑:モノを作るときというのは副交感神経が優位になっていて、脳からアルファ波が出ているんだけど、悩んでいるときは段取りをする脳が優位になって交感神経が優位になっていて、感受性が落ちてしまいます。あるアーティストにもそういう時期があって「木﨑さん。何をしてても何も感じないんです」と。それでも発売日とか決まっていると、どうしても作らなきゃいけないので相当に辛いと思います。メロディーはまだ作れるかもしれませんけど、詞は大変ですね。

ゴルフも同じみたいで、ある女子プロがお坊さんと対談しているのを雑誌で読んだんですけど、彼女はアマチュア時代、傑出していたのがプロになった途端、出来なくなったことがあった。それで「お坊さんに、教わらない方がいいんじゃないの?」という問いにこう答えた。

「いや、プロになったらもう一ランク上に行くためにはもっとより専門的な技術を学ばなくてはダメだと思います。試合の時、技術的なことばかりに頭が行って、あれこれ考え出すと駄目で、感性を優位にしなくちゃ上手くいかない。芝生がきれいだねとか、風が気持ちいいねというふうにして、学んできた技術的なことを忘れてプレイしないとうまくいかないでしょう?」と。

だから感性を優位に立たせるのがものを作るときや曲作りには大切ですね。表現力を維持・向上させるためにも、ゆったりした気持ちになれば、またいろんなことを考えられる可能性が高いですね。

──自分を追い込まないといけないし、しかもリラックスもしないといけないみたいなんですよね。結果も出さないといけないし。

島:結果がSNSでバアっと可視化される時代ですし。

木﨑:だから、そういうことばかりに頭が行っちゃいけない。

新庄監督(日ハム)が僕は好きなんだけど、彼はミスしたことにあまり怒らない。「もっと好きにやったらいいじゃん」と言う。本当はそう思ってないかもしれないけど、そう言ってあげないと選手が100%の力を出せないと知っているんだと思います。

島:野村監督(新庄監督の師匠)もそうでしたっけ?

木﨑:基本的に褒めることを大切にしてましたね。

島:星野監督(厳しい指導で有名)もとても優秀でしたが…。

木﨑:あれはダメ!

一同:(笑)

木﨑:自分は大学時代、バスケをやってて監督が怒りまくる人だったけど、単純にこういう教え方だけだと萎縮させてしまい良い結果が出ないことの方が多いと感じました。だから褒めて伸ばす監督が気になっていて。昔ロッテのバレンタイン監督がそういう人でした。アメリカの監督は選手を褒める人が多いですね。

島:自分を褒めるのってむずかしいですよね。

木﨑:だから人が褒めてあげないとね。

 

「深夜でもすぐにカウンセリングできます」

──Sottoはどんなふうに予約するのですか?

西岡:スマホやパソコンでカウンセリングを予約していただき、そのままカウンセリングが受けられます。アプリのダウンロードは不要です。基本的には今すぐご相談できるカウンセリングの枠も用意をしています。

──街のお医者さんでも1日はかかります(笑)。

西岡:モヤモヤした感情を整理したいときにすぐに使っていただけるように220名ほどカウンセラーを抱えています。カウンセラーのプロフィールを見て自分が話しやすそうな人を選んでもらうことも可能です。

──どうしても話を聴いてほしいときって誰でもありそうですね。

木﨑:その時が大事なんですよね。僕もパソコンを使うようになったのは、槇原が「詞が出来たらすぐに見てもらいたい」と言って家にパソコンを設定しに来てくれました。その頃、パソコンの出始めでメールの設定が大変でした。そのくらい詞とか曲ができたら、すぐに見てもらいたいんですね。

iPhoneが出た時も、別のアーティストに「木﨑さん電話すぐ繋がらないから」と言われて導入(笑)。

──Sottoですが、機能面以外に内容的な特徴はいかがですか?

西岡:厳選したカウンセラーのみと提携し、運営サポートも力を入れております。そのため、オンラインでもしっかりとした品質のカウンセリングをご提供できているかと。大切なお悩みを打ち明けていただいていますので、守秘義務も徹底しておりますので、誰にも打ち明けられないようなお悩みも安心してお話しいただけると思います。

──有名人が来てどんなに面白いことを話していても絶対に漏らさない?

西岡:もちろんです。守秘義務はカウンセリングを提供する上でとても重要なことだと心得ています。

島:cotreeさんとサービスを組むにあたって、プライバシーの徹底、キャリアの重視、運用体制に感銘を受けました。そこは本当に安心していただければと思います。

 

カウンセリングを通じて日本を幸せにしたい

──今後のビジョンというのはいかがでしょう。

島:Sottoを立ち上げたきっかけのひとつにSNSでの誹謗中傷を何か解決できないか、というのがあります。その観点からもSNSで活躍されているクリエイター、インフルエンサーに向けての提供も視野に入れていきたいなと思います。

それと心のケアの次って、どうしても体のケア、食事のケアという話になっていくので、心のケアと並行して例えばエクササイズと組みながら広げていければ。

──僕もジムへ行くようになって心の強度が上がった気がします。

島:メンタルが疲れていると運動する気にもならないし、食もおざなりになってしまいます。だから心をケアした次は、体のケアが必要で、提携先と一緒に開拓していければと思います。

西岡:コロナを経て、メンタルヘルスケアが改めて社会的に注目されましたと感じていますが、まだ日本においてはカウンセリングが文化としては定着していないと思っています。

クリエイターさん、アーティストさん、そして音楽業界のみなさんは社会的影響度が高いので、そうした方々が必要としていただけるサービスを提供することを通じて、音楽業界のみなさまのサポートだけでなく、メンタルヘルスケアの社会からの見え方を変えていければと願っています。

──欧米であれだけカウンセリングが普及した文化的な背景には、キリスト教があったと思います。

告解室で秘密を守る神父さんに何でも喋って許してもらう伝統があった上で、フロイトが精神分析のためのカウンセリングをそれに近いスタイルで発明したから受け入れやすかったんだと思う。彼は無神論だけどカトリックに親近感があった。

西岡:アメリカは、カウンセリングが保険適用されているのも大きいです。心理療法が正式な医療行為と認められていることもあり、日本よりもカウンセラーが心の専門家としての地位を確立しています。

──カウンセラーさんにしかないノウハウってありますもんね。

西岡:はい。

──鬱や過労、ストレスの対処法ってある程度、確立されたものがあって、カウンセラーさんはそのノウハウがある。それをみんなもふだんから知っておくのは大事だと思います。

西岡:Sottoが音楽業界の方々をサポートしていくというのは大前提ですが、そこだけにとどまらず、社会的なメンタルヘルスの問題を解決していくのにみなさんのインフルエンス力を助けに出来ると、日本が変わるきっかけにもなっていくんじゃないかと強く思います。

──先ほど島さんもおっしゃいましたが、責任感がすごく強い民族性はありますよね。責任感が強すぎると自分に対する怒りも強くなる。

島:出来ないことに対しては特に。

──怒りに対処するって簡単に言えば「許す」ということなんでしょうけど、なかなか自分で自分を許すというのは大変なことです。

カウンセラーさんとお話しながら自分を許していく。それが普及していくと日本人の心に幸せがどんどん増えて、根本的に世の中をよくしていくんじゃないかと思います。

本日はクリエィティブと心の問題という、とても大事だけどなかなか聞けないテーマで貴重なお話を伺うことができました。ありがとうございました。

 

(了)

インタビュワー・プロフィール

榎本幹朗(えのもと・みきろう)

1974年東京生。Musicman編集長・作家・音楽産業を専門とするコンサルタント。上智大学に在学中から仕事を始め、草創期のライヴ・ストリーミング番組のディレクターとなる。ぴあに転職後、音楽配信の専門家として独立。2017年まで京都精華大学講師。寄稿先はWIRED、文藝春秋、週刊ダイヤモンド、プレジデントなど。朝日新聞、ブルームバーグに取材協力。NHK、テレビ朝日、日本テレビにゲスト出演。著書に「音楽が未来を連れてくる」「THE NEXT BIG THING スティーブ・ジョブズと日本の環太平洋創作戦記」(DU BOOKS)。現在『新潮』にて「AIが音楽を変える日」を連載中。

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