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「日本の音楽にはふたつのビッグチャンスがある。私たちはそれを手伝いたい」世界的ディストリビューター、 FUGAの二人が語る

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▲FUGA、グローバル・マーケティングサービス シニア・バイス・プレジデント クレイグ・メイ氏(左)とクリスチャン・クローナー社長(右)

楽曲をあらゆる場所へ流通させるディストリビューターは、DIYミュージシャンだけでなくレーベルやマネジメント事務所などにとっても不可欠な存在になった。Spotify、Apple Music、LINE MUSIC、YouTube、TikTok等々、全世界へ楽曲の配信を手配して集金するだけでなく、その過程で得た膨大なデータは音楽マーケティングに欠かせないものになりつつある。

世界有数のディストリビューターである、Downtown傘下のFUGAはスペースシャワーとジョイントベンチャーを組み、日本でもサービスを展開。来日したFUGA社の社長クリスチャン・クローナー氏とグローバル・マーケティングサービスのシニア・バイス・プレジデント、クレイグ・メイ氏にインタビューした。

(取材:Musicman編集長 榎本幹朗 取材日:2024年10月25日)

 

配信とレーベルの専門知識を兼ね備えた経営陣

──まず自己紹介を。好きな音楽は何ですか?

クリスチャン・クローナー(FUGA社長):ガンズ・アンド・ローゼズです。

──私と同世代ですね。

クレイグ・メイ(FUGA グローバル・マーケティングサービス シニアバイス・プレジデント):グランジが好きでした。パール・ジャム、ニルヴァーナから始まり、ブラー、オアシスなどブリットポップに嵌りました。今はあらゆるジャンルを聴いています。

──素晴らしいバンドばかりです。楽器は何か?

クローナー:ギターとピアノを弾きます。

メイ:ドラムを叩いていましたが、歌は上手くありません(笑)。

──次にプロフィールについて。FUGAに来る前は何を?

クローナー:音楽業界でのキャリアは、SellaBand(音楽系のクラウドファンディングの先駆け)というスタートアップから始まりました。無名のアーティストが5万ドルの予算を集めることができる、クラウドファンディング・プラットフォームの先駆けです。

その資金で、最高のプロデューサーやスタジオと共にアルバムを制作し、貢献してくれたファンはCDやデジタルファイルの販売収益から利益を得られる仕組みでした。

ただクラウドファンディングとしては少し早すぎたようです。Kickstarterなど他のプレイヤーが参入してきて、残念ながら5年後に破産し、その後FUGAに入社しました。

FUGAの前CEOは私の知人で、「次の仕事が見つかるまで手伝ってくれないか」と頼まれました。2012年にサポート部門でクライアントからの質問に答える仕事を始めました。

──入社時はサポート要員だったんですね。

クローナー:はい。繋ぎの仕事のつもりでしたが、すぐにSellaBandとFUGAの類似点に気づきました。ここで成長し、会社に価値を付加したいと考え出すまでひと月もかかりませんでした。

私が入社した当時、FUGAはコンテンツを右から左へ届けるだけの配信プラットフォームでした。コンテンツに価値を加えたり、DSPにライセンス供与したりするアグリゲーターではありませんでした。

私はSpotifyやAppleなどのDSPとライセンス契約を確立する「アグリゲーションサービス」の立ち上げを手伝い、マーケティング部門とロイヤリティ会計部門を発展させました。9人だった始まりから、会社が成長するにつれてCOOになりました。

──現在のスタッフ数はどのくらいですか?

クローナー社長:約230人のスタッフが世界中で働いています。

──発展しましたね。ではメイさんのご経歴を。

メイ:今年で、音楽業界で働いて25周年になります。オーストラリアのマッシュルーム・レコードでキャリアをスタートし、セールス・レップとして店舗を回り、CDシングルやアルバムを販売していました。

その後EMIに移り、9年間勤めました。セールスから始めてマーケティングに移りました。最終的にはケイティ・ペリー、ダグ・バンク、ニック・ケイブ、スヌープ・ドッグなど、多くの国際アーティストやローカルアーティストのオーストラリア担当プロダクトマネージャーになりました。

次のソニーミュージックでは、私の音楽的バックグラウンドがオルタナティブだったこともあり、カルヴィン・ハリス、キングス・オブ・レオンなどの大型国際アーティストを担当しました。

その後、ユニバーサルミュージックとのジョイントベンチャーレーベルであるDew Processに移りました。これはSplendor in the Grass フェス(オーストラリアの大規模音楽フェス)のオーナーであるポール・ペティコが所有していて、フジロックとヘッドライナーで提携することが多かったです。

フジロックでコールドプレイやカニエが出演した時は、オーストラリアでも彼らがヘッドライナーを務めました。また、マムフォード・アンド・サンズやザ・ハイヴズなど、様々な国際アーティストやローカルアーティストが所属するユニバーサルとのジョイントベンチャーレーベルも持っていました。

その後オーストラリアで最大のインディペンデント・ディストリビューターであるショック・ディストリビューションの経営を任されました。CD配信と製造を手がけ、オーストラリアのすべてのフィジカル・プロダクトを製造し、自前のレコードレーベルも持っていました。2013年当時、私は35歳で、オーストラリアの主要音楽企業で最年少の経営者でした。

その後、現在の妻と出会いました。彼女はオーストラリアで働いていましたが、ロンドンに移ることを決めました。私は心に従ってロンドンに移りました。彼女は現在FUGAで法務部長を務めています。

──夫婦でFUGAに勤めているんですね。

メイ:はい。私は特にブリットポップなど、イギリスの音楽が大好きだったし、グローバル市場で自分を試してみたかったのです。

ロンドンでは、長期間レッドブルで働くことになりました。レッドブルメディアハウスのインターナショナルディレクターとして、レッドブルレコードのUS以外の地域—イギリス、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、南米—を担当しました。レッドブルは、マーケティング、ブランド、カルチャーがどのように融合するかを学ぶのに素晴らしい組織でした。

その後、DIYプラットフォームとアーティストサービス事業を持つDittoに移りました。アーティスト&レーベルサービスのグローバルヘッドとして、アメリカでチャンス・ザ・ラッパーのレコードや多くの大型リリースを手がけました。

──チャンス・ザ・ラッパーがデジタルマーケティングを駆使してインディーズから駆け上がってきたのは話題になりましたね。

メイ:はい。イギリスのミュージックシーンでは、StormzyやDaveといったアーティストを扱いました。そしてDittoで働いていた時にFUGAと出会いました。DittoはFUGAのクライアントだったのです。

2020年初めに、FUGAのグローバルマーケティング&ストリーミング部門のヘッドというポジションについて電話がかかってきました。それから4年が経ちました。私が入った時は14人目でしたが、今では50人のチームです。

──現在は、FUGAのグローバル・マーケティングサービスを統括されているのですね?

メイ:はい。私たちのチームは、クライアントがニーズに応じてグローバルに利用できるマーケティングエージェンシーのような機能を果たしています。20カ国に人材を配置し、それぞれのローカル市場で働きながら、クライアントがファンを見つけグローバルな足跡を築けるよう、音楽を国際的に展開する支援をしています。

──おふたりの経歴が日本の音楽業界にとっても、とても頼りになることがよく分かりました。

 

スペシャとFUGAが組んだ理由

──スペースシャワー・グループのOBとしても、なぜFUGAがスペシャをパートナーに選んだのか、とても興味があります。

クローナー: まず、FUGAはアムステルダムを拠点としていますが、オランダは小さな国なので、常に国外を見ていました。グローバルな配信サービスを作り、主要な音楽市場に進出して存在感を示すことを目指していたからです。

我々の成長戦略は、各市場に人材を配置し、マーケティング担当者やオペレーション担当者を加えて、地域の成長に合わせてチームを構築していくのを基本としています。

しかし我々は、日本が他国と異なることに気づきました。多くのレーベルを抱え、世界第2位の市場規模を持つ日本では、市場構造や文化的な違いから、通常のアプローチだけではうまくサービスを提供できないと判断しました。そこで、業界を熟知し、最高の専門知識を持つパートナーを探すことにしたのです。

そこで出会ったのがスペースシャワーです。初めて会った時から、私たちと近いアプローチを持っているとわかりました。彼らは業界がデジタルなフェーズに移行していくことを理解し、機会を探っていました。日本は新しい現実に適応するのに時間がかかり、業界は当時、保守的でしたが、スペースシャワーは非常に先進的な考え方で業界を見ていました。

私たちのテクノロジーと、日本の市場を専門的に理解している人材を組み合わせれば、強力なユニットが誕生します。そう考え、スペースシャワーが最適なパートナーだと確信しました。

──ニュースを聞いた時、「バウンディ(独立系レーベルのディストリビューション会社。2011年に本社へ経営統合)のあったスペシャとFUGAはうまくいく」と考えました。バウンディは多くのアーティストのデジタル・ディストリビューションを手掛けていたので、御社のテクノロジーと合うと思ったのです。

クローナー:その通りです。スペースシャワーは良好な市場シェアと知識を持ち、自動化されたデータとコンテンツ配信の能力を持つシステムをバウンディで持っていました。そして彼らもまた、より国際的な展開を望んでいました。

私たちが協力することで、配信テクノロジーをさらに発展させただけでなく、国際的なマーケティングと日本のアーティストの海外展開のための道筋も作ることができました。

 

日本の音楽を輸出するための基礎理論

──日本の音楽を輸出することは、日本の音楽業界の人々にとって主要なトピックになっていますね。最近、新しい音楽賞(Music Awards Japan)のニュースがありました。日本とアジアのストリーミング時代のグラミー賞を目指すオールジャパンのプロジェクトです。音楽を世界中、特にアジアに向けて輸出・配信する方法を説明するには、良いタイミングだと思います。

クローナー:確かに今まさに起きていることですね。K-POPの例を参考に日本も同様の動きを考えていますし、それは間違いなく可能だと思います。強力な音楽産業を持つ日本には、音楽を海外に展開する大きな機会があると感じています。

──メイさん。世界でマーケティングを担当されている立場から見て、特に日本のアーティストにとって、音楽をグローバルに配信する上でのキーポイントは?

メイ:最も重要なのは、自分が何者で、どんなストーリーを持ち、誰に訴えかけたいのかを理解することです。

現在、私たちはアーティストのマーケティングをブランド構築のように考えています。ビジュアル、ソーシャルメディアでのトーン、世界に発信したいメッセージ、アーティストとしての自分、何を表現したいのか、そして素晴らしい音楽を持っていることなど、すべてを考慮します。

人々の心に響くストーリーを作ることが重要です。良いストーリーができれば、ソーシャルメディアやデジタル・マーケティングを通じて、アーティストのストーリーに共感する人々と繋がることがずっと簡単になります。

ただ何かを始めて、うまくいくことを期待するのではいけません。計画を立て、適切なターゲットを目指すことが重要です。

また国際市場を理解し、フィリピン、インドネシア、シンガポール、韓国など、それぞれの市場で何が効果的かを教えてくれるパートナーと協力することも重要です。私たちとスペースシャワーの関係と同じことです。各市場のファンの心をつかむための、ローカルならではのニュアンスを理解することが必要なのです。

音楽はグローバルなものですが、消費のされ方は市場によって異なります。メディア、SNS、中国、韓国、そしてLINEのように各国特有のコミュニケーション手段など、それぞれに特徴があります。

グローバルな展開方法を理解しているチームと協力し、各市場で自分たちが何者で、なぜ人々に好かれるのかを説明できるストーリーを持つこと。そして最も重要なのは、素晴らしい音楽を持っていることです。

──なるほど。ストーリー作りが大切なのですね。

 

レーベルサービス(マーケティングサービス)とは

──ディストリビューションという事業はかつてシステマチックなものでしたが、今では主眼がアーティストサービス(レーベルサービス)のようなマーケティングに移行しつつあるように思います。なぜこのような変化が起きているのでしょうか?

▲クリスチャン・クローナー氏。FUGA社長(President)

クローナー:私が配信ビジネスを始めた頃は、アクセスと接続が重要でした。当時、多くのプラットフォームが登場し始めていました。最初はiTunes Music Storeのようなダウンロード配信が中心でした。

ストリーミング時代へ移行していく中で、デジタル配信事業者(略してDSP。現在ではSpotifyなど音楽サブスクを指すことが多い)がすべてのサービスに接続できるシステムを確保することが重要になりました。私たちはコンテンツが確実に届くよう、何百ものエンドポイントを持ちました。

次に重要だったのは、DSP上でコンテンツを目立たせること。これは今でも重要です。特定のプレイリストに入ることが大事で、そこから楽曲を成長させることができます。

しかし、今ではこれだけでは不十分です。様々なプラットフォームで認知度を高める方法を総合的に考える必要があります。DPSに限らず、SNSであったり、より広いデジタルの世界を使って、様々な方法でファンと繋がることが求められています。

ストリーミング・サービスも進化し、コンテンツの背後で多くのアルゴリズム(AI)とデータを構築するようになりました。楽曲がアルゴリズムに採用され、適切なファンの前に音楽が届けられるようにするには、適切な場所すべてに音楽を配置する必要があります。

私たちは組織として、こうした新しい世界、新しいルールに適応しなければなりませんでした。音楽業界で唯一変わらないのは、常に変化しているということです。

このような急速に変化する世界では、3年後に何が起こるか予測すら難しいですが、重要なのは適切なタイミングで機敏に方向転換できることです。私たちは変化に常に対応できる準備をしておく必要があります。

私たちのレーベルサービスは、単なるピッチング(DSPのプレリストを編集するチームに楽曲をプッシュすること)から、ファンサイドを見て、ファンと直接繋がる方法を考えることへと進化しました。以前、それはレーベルの仕事で、私たちは単なるコネクターでしたが、今では私たちが直接ファンと繋がっています。

──「レーベルサービス」や「アーティストサービス」という言葉をご存知ない読者に、説明していただけますか?

メイ:FUGAでのマーケティングサービス機能は、大手レーベルや小規模の音楽会社、そして大手配信業者がアーティストやクライアントのために行うことすべてを網羅するように設計してあります。

マーケティングプランの作成、ソーシャルメディアの運営、動画制作、アートワークのデザインなど、あらゆることができます。それらをレストランのメニューのようなアラカルトサービスにしました。

クライアントには柔軟にサービスを提供しています。例えば小規模なレーベルの場合、すべてのリソースを持っているわけではありません。アーティストはソーシャルメディアが得意だけれど、グラフィックやDSPへのピッチングで助けが必要だといった具合です。クライアントは自身の強みに集中できるよう、私たちのグローバルチームを活用してギャップを埋めることができます。

A&Rは得意だけどマーケティングで助けが必要、あるいは営業担当はいるがソーシャルメディアのサポートが欲しい、グラフィックデザインの担当者が必要、といったケースに対応できます。

必要な機能をすべて備えており、クライアントは必要なものをメニューから選ぶことができます。全アーティストにも対応できますし、単一のキャンペーン、一人のアーティストなど、どのような規模でもクライアントは自分たちが行っていることを補完するサービスを選択できます。そういったマーケティング・エージェンシーを構築しました。

──それがFUGAのマーケティングサービスなんですね。通常のレーベルとは異なることが分かりました。

 

ストリーミング時代、簡単になったことと難しくなったこと

──メイさんはCDが主流だった時代にレーベルでキャリアをスタートされましたが、CD時代と比べて何が変わり、何が変わらないと思いますか?

▲クレイグ・メイ氏。FUGAグローバル・マーケティングサービス シニア・バイス・プレジデント(SVP, Global Marketing Services)

メイ:違うのは音楽へのアクセスのしやすさです。かつて音楽ファンはラジオを聴いて、週に1枚か月に1枚CDを買えるかどうかという状況でした。そのCDを何度も繰り返し聴いて、すべての歌詞と曲を覚えて、アルバムの中にあまり好きではない曲があっても、それしか持っていないので、最終的には好きになっていったものです。

今では、スマートフォンで世界中のどんな曲でも、いつでも聴くことができます。現在の私たちのミッションは、その音楽を好きになりそうな人々を見つけ出し、彼らが感情的な繋がりを持ち、本当に好きになれるような適切なタイミングと場所で、その音楽を届けることです。

ストリーミングでは受動的に音楽を聴き始めます。そこから気に入ったアーティストの「いいね」や「フォロー」ボタンを能動的に押してもらう。さらには音楽を周囲に紹介してもらい、SNSで繋がり、最終的にはチケットやTシャツを買ってもらう。

こうしたファン・ファネル(※)を通じて私たちは受動的な楽しみ方から能動的な楽しみへ導いていきます。アーティストが語りたいストーリーに基づいて、ファンをその旅に連れて行くのです。

  • ファネルとは、顧客が商品を認知してから購入に至るまでの行動ステップを図式化したもの。認知→興味→購入(→ファンに→周囲にシェア)、と段階を踏む度に人数が減るので、図式は漏斗(funnel)の形になっている。

これは音楽が常にそうであったように、アイデンティティの感覚に帰着します。私がグランジ・ファンだった頃、バンドのTシャツを着てフランネルシャツを着ていました。

音楽は今でも人々のアイデンティティの重要な部分を占めています。レイバー、ロックファン、ポップファン、K-POPファン。ジャンルは違えど、若者文化は大部分において、好きな音楽を通じて自己表現をすることは今も昔も変わっていません。

これは常にそうあり続けるでしょう。なぜなら音楽は最も一般的に消費されるアート形式だからです。音楽は人を泣かせ、踊らせ、怒らせ、幸せにする。それは人間の存在の一部なのです。

そういう意味で、マーケティングは今の方が簡単です。いつでもどこにでも届けることができますから。でも重要なのは、その人とどう繋がるかです。

私たちが多くの時間を費やして考えているのは、どうやってその人をファンに変え、音楽を彼らのアイデンティティの一部にするかということです。

──同感です。ではクローナーさん。今はデータ・マーケティングの時代と言われています。アルゴリズムにはデータが必要で、プロモーションにもデータ分析が必要になりました。しかし、人間は変わっていません。つまり音楽ファンの根っこは同じで、ただデジタルの世界での新しいプロモーション方法があるということですか?

クローナー:一つ言えることは、今と昔でデータが異なるということです。昔と比べ、はるかに多くのデータがあります。

ストリーミング時代に入り、私たちはリスナーの消費動向に、即座にアクセスできるようになりました。

日本で、中国で、オーストラリアで、アメリカで誰がどんな音楽を聴いているのか。その日のうちに「このファンがこの音楽に関わった」と分かります。すべてのデータを組み合わせ、次の計画についてより洞察に富んだ判断が短期間で可能です。

これはすべてがアナログで、販売レポートがずっと後になってから届いていた時代とは異なります。その頃もファンと繋がる方法を見つけなければなりませんでしたが、今はその点ではより簡単になっています。

クレイグ(メイ)が言ったように、違いは音楽が増えすぎて、人々の関心を引くことが以前よりも難しくなっているということです。

──なるほど。変わるものと変わらないものがあるように、簡単になったことと難しくなったことがあるのですね。

メイ:ストリーミングだけではありません。今では人々の生活に関する他のすべてのデータも持っています。誰もが自分の生活をソーシャルメディアで共有しているので、好きな音楽だけでなく、好きな食べ物は何か、ペットを飼っているのか、他に何をして過ごしているのか、生活の様々な側面についても深く理解することができます。

以前は誰かがCDを買っても、その人のことは何もわかりませんでした。今では、そういった情報すべてにアクセスできるので、彼らが好きそうな音楽を適切な場所と時間で届け、心の繋がりを作ることができます。

──お二人の話を聞いて、デジタルマーケティングについて、とても頭が整理されたように感じます。

 

レーベルに提供する「レーベル・サービス」とは

──次の質問です。日本ではディストリビューターといえば、DIYアーティストが全世界へ配信できるようにするTuneCoreのようなイメージが強いようです。対してFUGAは会社を顧客にするB2Bであり、レーベル・サービスのような新しいサービスも提供しています。

読者の混乱を避けるため、レーベルに対してはレーベルサービス(マーケティングサービス)をどのように提供しているのか、説明していただけますか?

クローナー:DIYアーティストがレーベルと契約しない選択をした場合、つまり自分で全てを行うことを決めた場合、ディストリビューターを利用して音楽を配信することができます。

しかし、DIYアーティストにとって難しいのは、音楽を配信することはできても、いかに人々に関心を持ってもらうかというマーケティングの部分です。単に自分の楽曲を配信すれば、それで終わりというわけにはいきません。

ファンとの繋がりを築くには、パートナーやチームメンバー、あるいは明確なソーシャルメディアのプレゼンスなど、何らかの方法が必要です。

レーベルは歴史的にそれを担ってきた存在です。アーティストのプロフィールからイメージ像を作り上げ、それを広めるべくマーケティングを行います。そして音楽をリリースし、アーティストのプロフィールと音楽を結びつけてファン層を築いていくのです。

優れたディストリビューターは、レーベルがそういった部分を強化できるよう支援します。

私たちはデジタル空間を理解し、あらゆるDSPと関係を持っており、彼らが重視することや音楽を最適なポジションに置く方法を知っています。ソーシャルメディアやTikTok、YouTubeなどのUGCサービスも理解しています。これらは意味のあるデジタルキャンペーンを展開するために必要な場所です。

それぞれのエンドポイントに合わせて、マーケティングプランを作成し、データへのアクセスを提供することで、レーベルがこれらを達成できるよう支援します。これが優れたディストリビューターのあり方であり、私たちがレーベルのために行っていることです。つまり、単にSpotifyへのアクセスを提供するだけではないのです。

──なるほど。メイさん、いかがですか?

メイ:過去15年間で音楽は大きくデジタル空間に移行しましたが、今も変わらず音楽の本質はアートであり、情熱であり、ストーリーテリングです。そしてその多くは、クリス(クローナー社長)が話したように、関係性に帰着します。

レーベルであれマネジメント会社であれ、関係性こそが最も重要なのです。アーティストが必要とするのは、世界に向けて自分たちのストーリーを形作り、伝えていく上でのサポートとガイダンスです。

世界には素晴らしいDIYプラットフォームがあります。私も以前そういった会社で働いていました。そしてアクセスという面では本当に良い仕事をしています。しかし、関係性の面ではあまりサポートがありません。それを助けるには他の人々が必要で、それが私たちの行っていることです。

私たちは「グローバルなプロフィール、ローカルなプレゼンス」というマントラを持っています。

日本ではスペースシャワーと構築しているように、現地と関係性を持ち、現地にいる人々がそのストーリーを伝え、現地のDSPとの関係を築き、レーベルやアーティストができるだけ多くの人々に音楽を届け、感情的な繋がりを作れるようサポートすることを確実にしています。

 

SPACE SHOWER FUGAと他のディストリビューターの違い

──もう一つ基本的な質問を。グローバルにも日本国内にも様々なディストリビューターがいますが、御社と他の事業者との差異点は?

クローナー:最も特徴的な点は、私たちとスペースシャワーの組み合わせに見られます。音楽業界を本当に理解している日本企業とジョイントベンチャーを行いました。

競合他社の中には国際ビジネスを持ち込んで基本的に日本語に翻訳するだけというところもありますが、私たちはサービスの基盤が日本的であることを確実にし、そこにテクノロジーと国際的なリーチを加えています。

こうしたアプローチが我々のユニークな点と考えており、世界の市場で強固なポジションを築けている理由だと思います。

メイ:日本市場を超えて、FUGAの最大のUSP(独自の強み。Unique Selling Proposition)は、世界最大級のB2Bディストリビューターとして、多くの異なるクライアントと協力し、大量の音楽を配信していることです。そこから多くのデータが得られます。

マーケティングの観点から言えば、より多くのデータを持つことで、市場で何が起きているのか−−消費パターン、トレンド、動向などをより良く、早く理解できます。世界は本当に速く動いていますから。

膨大なデータへのアクセスと優れたデータサイエンス・チームにより、それらを分析して洞察を導き出し、クライアントに提供することで、競争に打ち勝つための実用的な洞察を提供できるのです。

 

日本の音楽業界に感じること

──メイさん。フジロックフェスティバルへのアーティスト派遣など、日本企業と仕事をした経歴をお持ちですが、欧米企業と比べて日本企業との仕事をどのように感じていますか?

メイ:日本企業との仕事は本当に楽しんでいます。なぜなら、そこには敬意があり、完全な理解を目指すという姿勢があるからです。これは他の市場とは異なる点だと感じています。

目標を達成するまでに少し時間がかかりますが、それは本当に理解し合い、信頼関係を築くことがこの国の人たちにとって重要だからです。これは欧米と異なるビジネスの進め方ですが、私はそれを楽しんでいます。

──クローナーさんはいかがですか?SPACE SHOWER FUGAを立ち上げる過程で日本に感じてきたことは?

クローナー:私も本当に楽しんでやっています。日本企業は長期的な視点を持っています。気まぐれにパートナーを選んだり、こっちの方が安いからここに来て、次はあそこに行くということはありません。彼らは本当に理解し、ビジネスパートナーとして組むことを望みます。

パートナーシップのあり方は、私たちの働き方にも強く関わってきます。なぜなら、私たちはクライアントの成功を支援し、クライアントと共に新しいサービスや製品を作り上げていきたいからです。このパートナーシップの側面が日本の業界のユニークな点だと思います。

メイ:マーケティングの観点から見ると、日本は常に非常にエキサイティングな市場です。なぜなら、日本のファン文化のレベルは、多くの欧米の文化とは全く異なるからです。

水曜日にここ渋谷のタワーレコードに行きましたが、K-POPやJ-POPの階があるのを見て感動しました。これほどのものは欧米のレコード店ではもう見られません。店舗ももっと小さくなっています。日本には複数のフォーマットがあり、ファンがそのすべてを購入するという形でアーティストへの愛情や感謝の気持ちを表現しているのは素晴らしいことです。

日本で音楽が人々のアイデンティティの一部としてこれほど重要な位置を占めているのを見て、いつも感動してきました。

スペースシャワー・チームと協力して、国際的なアーティストを日本に持ち込むのを支援し、同時に日本のアーティストを国際市場に送り出して、この熱狂を他の市場に広げようとしていくのは、本当にエキサイティングです。

──おっしゃるとおり日本の音楽市場は、形式も内容も多様だと思います。日本の音楽産業の現在の課題についてどのようにお考えですか?

クローナー:多くのチャンスがあると思います。まだ大きな物理的な市場が存在し、その減少速度はそれほど速くない一方で、ストリーミングは成長しています。その組み合わせは、私は非常に強力だと考えています。

それが一つ。もう一つのチャンスは、私たちが話しているように、日本の音楽を世界に輸出することです。これはまだ実現の初期段階ですが、世界はそれを受け入れる準備ができ始めていると思います。

日本企業が、音楽をそのまま世界に輸出するだけでなく、より魅力的にするためにいくつかの変更を加える−−例えば英語バージョンを入れるなどの工夫をすれば、世界の配信インフラと日本の音楽は本当にグローバルな視野を持てると感じています。これは大きなチャンスです。

日本の業界はここからさらに成長できると思います。課題−−これは問題というよりも、私たちが解決を支援できる課題ですが、それはデータです。日本では多くの音楽企業が長い歴史を持ちつつも、あまりデータを持っていません。

過去にCDやカセットで音楽をリリースしましたが、それを適切な方法でデジタル化して、楽曲を配信に最適化したフォーマットにする方法がありません。

これは現在の課題であり、FUGAはこの移行を支援できます。なぜなら、これは別のチャンスに繋がるからです。コンテンツが今は適切な形式になっていませんが、私たちがそれを適切な形式にすれば、デジタル面でも実際に成功するでしょう。

そう、これは課題であり、チャンスなのです。

──問題というよりチャンスということですね。

メイ:世界では音楽の消費の仕方が変わりました。あらゆる曲に簡単にアクセスできるようになったからです。良い音楽は正しく扱えば必ず聴衆を見つけます。

韓国市場がK-POPで成し遂げたこと、そしてそれが世界的に広がった方法は、日本だけでなく、様々な音楽文化が自分たちのコンテンツを世界に向けて発信し始める上で、とても良い青写真となっています。

昨今、一部の日本企業が最初の段階から国際展開を視野に入れて動きつつあります。エイベックスのXGやONE OR EIGHTが良い例ですね。日本で成功してから海外に出るのではなく、最初から英語圏をターゲットにしているのです。

これは日本企業のマインドシフトの変化です。

以前は、おとぼけビーバーのような、ロックフェスティバルに出演できるような個性的なロックやオルタナティブな音楽が海外の観客を見つけることがありました。しかし今では、商業的なポップミュージックの分野で興味深い取り組みをする企業が出てきており、最初から国際的なオーディエンスをターゲットにしています。

私たちは韓国に強いビジネス基盤があるため、多くのK-POPに関わってきましたが、同じような動きが日本市場でも始まっているのを見ています。スペースシャワー・チームやクライアントと協力して、この市場から生まれる素晴らしい音楽のグローバル化を支援できることをとても楽しみにしています。

──同感です。「日本から世界へ」ではなく、他の業界のように始めから日本と世界を相手にするマインドシフトが音楽業界にも起きつつありますね。

 

日本の音楽業界へのメッセージ

──最後に読者、特に日本の音楽業界の読者へのメッセージをお願いします。

クローナー:成功をもたらすのは、常に変化を探し続けることです。過去を振り返るのではなく、前を向いて、これまでのやり方ではなく、目の前にあるチャンスを探して下さい。世界は変化し、業界も変化しています。その変化に追いつき、それを実現するための適切なパートナーを選ぶことが大切です。

メイ:グローバルな音楽業界で働くには、これ以上にエキサイティングな時期はないと思います。なぜなら、アクセスの障壁が取り除かれたからです。

素晴らしい楽曲があり、良いストーリーとイメージがあり、人々と繋がることができれば、今では成功します。以前は多くのゲートキーパーが存在し、物事を止めたり、多くの人々を説得する必要がありましたが、今では直接ファンにリーチできます。

今という時代は選択肢が膨大にありますが、素晴らしい音楽と素晴らしいストーリーがあれば直接、観客を見つけることができるのです。

これは今後ますます重要になっていくでしょう。そしてそれこそが、日本の音楽業界にグローバル規模のチャンスをもたらすものなのです。

──もう一つだけ質問させて下さい。仕事でどんな時に幸せを感じますか?

クローナー:クライアントとスタッフが活気づき、学んでいる時に幸せを感じます。それが重要なポイントです。立ち止まらないということです。

私が2012年にFUGAで働き始めてからずっと、物事は決して同じではありませんでした。常に成長があり、新しいサービスを追加し、様々なものを加えてきました。それが私をいつも興奮させ続けています。決して退屈することはありません。「仕事に行かなければならない」という感覚はありません。

メイ:私の毎週の楽しみは、水曜日の午後に行われるグローバルミュージックミーティングです。世界中の全員がオンラインで参加して、今後リリースされる音楽や優先事項について話し合います。

ここにあるような大きなTVスクリーンで、世界中の人々が一つの画面に集まり、クライアントとそのアーティストが観客を見つけて繋がりを作るのを支援する−−そんな光景を見るのは特別な体験です。

画面を見て、50人のメンバーがそこにいて、私たちが築き上げたチーム、クライアントに提供している価値、そして全員がこのプロジェクトの一員であることを愛し、音楽業界の仕組みを変えるものを構築していることを実感する。それが私の毎週のベストな瞬間です。

私たちは本当に恵まれた立場にいます。毎日、音楽の中で働き、音楽の話ができるのですから。みなさんも同じではありませんか?

14歳の頃の自分に「音楽業界で25年間、キャリアを続けることになるよ」と言っても信じなかったでしょう。私たちは本当に幸運です。ここ日本の東京で、みなさんと音楽について話をしているなんて、素晴らしいことです。本当に幸運です。

──これは良い記事になると思います。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

インタビュワー・プロフィール

榎本幹朗(えのもと・みきろう)

1974年東京生。Musicman編集長・作家・音楽産業を専門とするコンサルタント。上智大学に在学中から仕事を始め、草創期のライヴ・ストリーミング番組のディレクターとなる。ぴあに転職後、音楽配信の専門家として独立。2017年まで京都精華大学講師。寄稿先はWIRED、文藝春秋、週刊ダイヤモンド、プレジデントなど。朝日新聞、ブルームバーグに取材協力。NHK、テレビ朝日、日本テレビにゲスト出演。著書に「音楽が未来を連れてくる」「THE NEXT BIG THING スティーブ・ジョブズと日本の環太平洋創作戦記」(DU BOOKS)。現在『新潮』にて「AIが音楽を変える日」を連載中。