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第218回 株式会社FM802編成部長 「RADIO CRAZY」プロデューサー・今江元紀氏【後半】

インタビュー リレーインタビュー

今江元紀氏

今回の「Musicman’s RELAY」は株式会社エッグマン [NOiD]レーベルプロデューサー・永井優馬さんのご紹介で、株式会社FM802編成部長 今江元紀さんの登場です。

京都の老舗玩具屋と和装卸売業の三代目の間に生まれ、立命館中学・高校・同大学法学部卒業後、2004年にぴあへ入社。『ぴあ』編集部の音楽班を経て、2010年にFM802へ入社後、「RADIO  CRAZY」のプロデューサーを務めるなど、音楽イベントの企画制作にも携わる今江さんにじっくりお話しをうかがいました。

 (インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也、Musicman編集長 榎本幹朗)

 

▼前半はこちらから!
第218回 株式会社FM802編成部長 「RADIO CRAZY」プロデューサー・今江元紀氏【前半】

 

FM802はコンテンツを生む達人の集まり

── (取材時2024年は)「Radio Crazy」 開催が15周年でFM802が開局35周年を迎えるわけですね。

今江:色々と言い訳して企画を通しやすいタイミングですね(笑)。様々なプラットフォームが台頭している中で、 「FM802も変わっていかなければならないな」とつい思ってしまうんですけど、生活メディアとして 35年間愛されてきているので、ネガティブな意味ではなくラジオというプラットフォーム自体はずっとゆるく続いていくものなんじゃないかなと思うんですよね。

本当にラジカセでしか聞けないようなプラットフォームだったら、完全に衰退していたと思うんですけど、今は10代〜20代の方でもradikoみたいなアプリが出てきたことによって聞ける機会も増えてきて、それがラジオの復活の兆しだったなと。オードリーさんみたいに、オールナイトニッポンの番組で東京ドームが埋まるみたいな話があるわけですから、プラットフォームを介してラジオに接触してもらう機会は昔よりも増えてきている気がします。

──若い世代の方にとってはラジオを聴くというよりは、アプリが音声コンテンツとして生活の一部に入っているような感じなんですかね。そういったコンテンツの制作力・展開力はすぐに真似できるものではないですよね。

今江:FM802にいざ入ってみると、改めてコンテンツを生む達人の集まりだと思ったんですよ。 私自身はそんなにクリエイティブな方では無いので、クリエイティブな人たちをどうやって巻き込んでいくかを何年も考えてきたので。

じゃあそれをどうやって実行していけるか、行動していけるか、みたいな判断基準はぴあみたいな大きな会社とFM802の両方を味わって非常に感じてるものも多いので、最大限のトライはし続けたいですね。

──今江さんはぴあ時代に大阪が肌に合ったと仰っていましたが、それは今も変わらず感じていらっしゃるんですか?

今江:転職してからそこはさらに加速しましたね(笑)。レコード会社さんは割と異動が多くて担当する方が入れ替わることが多いんですけど、名古屋だとライブが終わって最終便でギリギリ帰ることもできるんですが、大阪だともう諦めて一泊することが多いのでアーティストさんとの距離が非常に近いというか。

それに関西は名物イベンターさんも多くて、そのイベンターさん達がFM802というキーステーションでみんな繋がっているというところがすごく大きくて、それが「MINAMI WHEEL」に繋がっていくんです。イベンターとして彼らはライバル同士ではあるんですけど、非常に仲も良いんですね。なんならこの音楽のジャンルだったら誰か紹介しましょうか?と普通に他社でも紹介したりするぐらい、関西のイベンター文化は独特で。

──ひとりひとりの結束力が強いこともあって、イベントが大きく成長していく文化があるんでしょうね。

今江:コロナ中にはイベンター同士で2週間に1回とか1ヶ月に1回の会議で話し合いをして、その中に私も参加させていただいて「OSAKA GENKi PARK」パークという企画が展開することができました。これは大阪市と一緒に組んだフェスだったんですけど、例えば本来1社にPAをお願いするところ、 2社にあえてPAをお願いしたり、全イベントの全業種、みんな苦しい中で一緒に頑張ろうという想いで始まったイベントなんです。 それこそが大阪のエンタメ文化そのもので、その根底に成り立っているのが「MINAMI WHEEL」だったり「RADIO CRAZY」だったりするんですよね。

──「MINAMI WHEEL」で参加しているたくさんのアーティスト一覧を見ると、音楽業界人にとっても指標になっていますよね。

今江:東京だったら担当のアーティストがAとBとCだったとして、例えばプロモーターさんがAの現場やられていて、BとCのプロモートさんも一緒にやっているとかってあんまりお見かけしないと思うんですけど、大阪ではよくあることなんです。一泊すると一緒にご飯も食べにいってワイワイやる文化が街のサイズ的にやりやすいんですよね。しかも、みんな自転車1台で各社を行き来できるサイズ感も含めてですけど。

──イベントに限らず映画祭とかも大阪・京都ぐらいのサイズ感でやった方が盛り上がったりするじゃないですか。東京で同じようなことをしようとしても、誰も知らないような状況になりやすいですからね。

今江: FM802には「FUNKY MUSIC STATION」というキャッチコピーがあって、「ファンキーとは?」と会社でたくさん議論しました。やっぱりローカルメディアとして街に根付いて、「この街で一番ワクワクしている人たち、輝いている人たちが集まるステーションになりたいね。」という想いで音楽を軸にした展開とか、イベンターさんともコロナも乗り切って一通り見えてきたんですよね。この勢いを維持して街に根付くようなコラボレーションをしていくことが、今のFM802のテーマのひとつになっている気がします。

 

FM802でしかできないこと、届けられない音楽をちゃんと届け続ける

──2025年のトピックとして「大阪・関西万博」が開催されますね。

今江:万博に関しては諸説、いろんなご意見が出ていますが先程お伝えしたコンテンツの方向性と人をどう巻き込んでいくかという時に、「次のパートナーやブレーンとどういう形で出会うか」みたいなところで「大阪・関西万博」はすごくいい手段だなと思っています。

実際にそこでお仕事に繋がるというのも非常に多くなってきていて、それはやっぱりローカルメディアとして街とつながるということに近いなと思っているので、本当に週1回ぐらいは、この街の色んなことをやっている人たちと繋がれるような飯会をしたいという想いで今は色々と動いていますね。

──今まで関わりの無かった分野においても、FM802ならではの役割があると思います。

今江:FM802でしかできないことをやろう、届けられない音楽をちゃんと届け続けよう、というアイデンティティみたいなものがこびり付いてしまっているので、FM802が今までコツコツと作り上げてきた基礎的な部分を正面に据えながら、じゃあ次はこの左手を何に使うのか、この右手を何に使うのか、そこですかね。

「予算投下していただいたから曲をかけます。」みたいなことはしないというか、必ず顔の見える人間が最後まで曲を届けるというところを拘ってやってきたので、楽曲は最後までかけることとか、ヘビーローテーションで推した人は最後までちゃんと応援しようとか、ライブに行って実際にお客さんとアーティストの関係値を見ようとか、普通のことをやっているつもりなんですが、色々とメディアでお話しを聞いていると、それは当たり前ではなかったりして。

──音楽業界以外の方たちにも是非聞いてほしいお言葉ですね。FM802の制作はそういった音楽に対する誠実な部分がベースにあって、その制作能力が活きる瞬間というのは必ず来ると思います。

今江: 「ラジオ離れがどうですか?」 とか「新しいプラットフォームでどうしますか?」と心配されることもあるんですけど、全然違うものなので普通に共存できると思えちゃうんですよね。テレビによって出会えるものとか、インターネットによって出会えるものというのは全く否定していませんし、たまにはそこともジョインできればと考えています。

──今後はそういった部分も含めてチャレンジを続けていくと。

今江:引き続きフリーペーパーも出しますし、「RADIO CRAZY」15周年というのを言い訳に、いろんなメディアでFM802のコンテンツを展開していこうと思っています。ただ、実際にやろうとする「誰がやるんですか?」って話になるんですよね(笑)。

──FM802に限らず、多くの会社が抱えている課題ですよね。

今江:インスタもやった方がいい、Tiktokもやった方がいい、YouTubeもやった方がいい、とセクションを作ってからやると恐らくもたないんですよね。こういった周年のタイミングでやれる時に展開を含めて増強できたらと考えているんですが、FM802は40人規模の会社ですが、それでもなかなか実現できないんですよ。とはいえ、FM802の宣伝という名目でトライすることはできるので、実際にアクションに移せればあとは走っていけるかもしれないです。

フリーペーパーを始めた時もそうだったんですけど、最初はどうなんだろうと思っていても、チラシ配りがいくらでこれらを束で重ねることでフリーペーパーにすると意外と広告費が集まるなとなって、可能性を感じるものにはどんどんやっていきたいな、というのは常に思っていますね。

 

大阪芸大の客員教授として学生たちとイベント制作

──改めてお話しを聞いてみると、大学生の時にやろうと思っていたことが全部叶ってきていますね。

今江:そうですね。就職活動とか大学時代の動き方は振り返ると大きかったかもしれないです。

──絶妙なタイミングでぴあから理想的な転職もできて、ぴあで培った能力が今のお仕事に活かされているわけで。

今江:それこそミュージックマンのサイトをずっと見ながら、どこの会社が求人を募集しているかなって、ずっと見てました。

──そうだったんですか!それは嬉しいですね。

今江:音楽業界の求人にも少し関わってくる部分だと思うんですけど、大阪芸大の客員教授をやらせてもらっているんです。前期は1週間90分の講義とプラスして演習を持たせていただいて、演習は通年なんですけどで学生9人と1年間で1つのイベントを作るっていうのをやっていまして。毎年1月にライブハウスでやるんですけど、本当にイチから企画書も作らせて全部学生に考えさせています。

──FM802でもバリバリお仕事をしている中ですごいガッツですね!

今江:FM802の35周年企画の中でも、いろんな学校にも出ていって学生にも繋がろうということで、「MINAMI WHEEL」の学生枠を作りまして、学生オーディションやったんですよ。

レーベルとかマネジメントに所属してない学生だけエントリー可能で、「MINAMI WHEEL」は3日間開催するので3組が出場を目指す形でライブハウス予選を2回やって、大阪のBIGCATで決勝戦をやって3組を選んだんですけど、そこで久々に学校の軽音楽部人たちに繋がる機会ができたんです。

せっかくエリアに属しているメディアなので、もっといろんなコミュニティに広がっていけたらと思っていますし、そういう学校自体にもエンタメ業界の話や音楽業界の話とかを教えたり地道な活動をテーマにしています。学生にとっては勉強しながら聴くコンテンツとして、そこでradikoとかに出会ってもらうのがラジオを聴く動機だったりするので。

──今江さんご自身も振り返ると勉強中にラジオに触れていましたか?

今江:確かに自分も振り返るとすごいラジオっ子じゃないですけど、定期テストの時にラジオを聞きながら夜中に勉強していたなと。「あの放送の時にあの漢字を書いてたな・・・」みたいに思い出してテストを乗り切ったことも結構ありましたね(笑)。なので、学生とのミーティングもこれからはたくさん入れたいなと思っていまして、母校にも行って話させてほしいとお願いして実際にお話しをさせていただく機会をいただいています。

 

街自体のカルチャーを変えていく

──FM802だけでなく個人でも幅広くご活躍されていますね。そんな今江さんの今後の目標などは。

今江:お陰様で「音楽でこんなことがしたい」「アーティストとこういうことがしたい」といった自己実現は結構できてきました。ぴあ時代に「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」に行かせていただいたことがあるんですけど、その体験をした時にこういったイベントをするには「街そのもののカルチャーを変えないとできないな」と感じたんですね。

今も平日のライブハウスは動員が厳しくて、一生懸命宣伝のお話をいただいてFM802でスポットCM流すとか、インスタに広告を打つとか、フリーペーパーを配るとか宣伝方法はいっぱいありますけど、知ったから行くじゃなくて、自然とそういう機会に触れられるような街自体のカルチャーを変えていくしかないなと思っています。

──35歳頃から生活環境の変化も含めて、ライブハウスなどの場所に行かなくなってしまうデータも出ていますよね。

今江:そうなんですよ。土日にイベントが集中するので土日ばかりだと業界人も見に行けないということもあって。演劇とかミュージカルは昼公演があって暇だなと思って映画館で見たいもの見ていくみたいなものはあるんですけど、ライブハウスやコンサートにはあまり無いんですよね。

例えば土日に地方でイベントを開催したら、そのまま月曜も残っていただいて地元のライブハウスに出ていただいたり、ビルボードじゃないですけど、ランチと合わせてライブも見ることができる場所が増えたり、みんなで平日のライブを楽しむ文化とかライブ配信を見に行く文化が根付けば良いなと思っています。

──これだけ情報が溢れている世の中になると、どこで何がやっているかも把握しづらいですよね。

今江:自分がぴあのカレンダーを作っていたこともあって、余計に「とにかく行ってみよう」みたいな勢いは減ってきている気がしますね。段々と「推し活」の文化になっていってスポット的に拡げていく形になっているので、もっと音楽全体とかライブ配信を見ること全般みたいなのを広くカルチャーとして伝えていく作業が必要だし、そこにシステムの改良が必要なんだったらそういったところにもチャレンジをしたいです。

──実際にFM802に入ってこられた方はどういった感じですか?

今江:FM802も会社は会社なので、30手前の若い子たちとかが「なんか違うな」と思って2〜3年で辞めちゃったり、やりたいことが上手くできなかったり、どこの会社にも似たようなことはありますね。

私自身は転職を1回しかしていないので説得力があるかはわかりませんが、どこに行っても同じ課題には必ずぶち当たるんで、転職って洋服着替えるようなものだと思っています。服を変えたって自分自身の仕事への向き合い方が変わらないと結局何も変わらないというか、仕事ってなんとなくそんなもんじゃないかなっていうのは感じています。

──おっしゃる通りだと思います。

今江:1月1歩でも進むんだったら、一歩ずつでも年間12歩進めてくれたら、あとは進められる人で残りの88歩を進めば100歩になるので、必ずしも全員が50歩進まなきゃいけないってことでもないかなと。

──FM802に何度か仕事で行ったこともあるんですが、FM802ほど明るいラジオ放送局はないですよね。

今江:いまだに学校の部室みたいな雰囲気はあるかもしれません(笑)。先程のチャレンジについても、まず自分から手をつけなきゃと思うんですがそれを一人じゃなく、誰かに引き継いでやっていくことが必要な立場にもなってきていて。

ここからの選択としては自分自身でやるのか、それこそ会社でやるのかみたいなことも出てきますし、次の世代の人でもっと違う転がし方ができる方法があると思うことも多々あるので、そういった新陳代謝を上手く繋げられたらと思っています。

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