【特別取材】音質だけでない?Qobuzのアワードを受賞した曲は世界26カ国でプロモーションされる

日本に上陸して間もないハイレゾ聴き放題の老舗Qobuz(コバズ)。プロも納得の音質は周知の通りだが、世界のQobuzのスタッフにより選出されるアワード「Qobuzissime(コバズィシム)」を受賞した曲は26カ国へ展開され、各国語のマガジンでも紹介されるという。J-POPブームの兆しは本当らしく、既に各国のチームから待望の邦楽カタログに問い合わせが来ているそうだが、国内統括マネージャーの祐成秀信氏に、ハイレゾの歴史とともに世界の現状を語ってもらった。
(インタビュアー: Musicman編集長 榎本幹朗、Musicman発行人 屋代卓也 取材日:2025年2月4日)
90年代から日本の音楽は需要があった
――まず自己紹介を。学生時代は何を?
祐成秀信(Xandrie Japan株式会社[Qobuz] 国内統括マネージャー):シカゴの大学の音楽科に行きましたが、DJをしつつ、アメリカのレコードショップに就職。日本の音楽も扱うショップでした。
――DJはプレイリストのエディトリアルに通じますね。90年代から日本のCDやレコードがアメリカでも売れていた?
祐成:需要があるのが見えていました。そこから帰国してNapster(※ファイル共有ではなく音楽サブスクの方)に転職しました。
――Napsterでの仕事はどんな感じ?
祐成:エディトリアル・チームにいましたが、当時は本当に手探りでした。
――Spotifyが日本に上陸する10年前でしたからね。ともあれ、祐成さんは音楽サブスクとの関わりが深いんですね。Napsterの日本撤退後はIRMA RECORDSというイタリアのレーベルを経て、e-onkyo musicにということで?
祐成:まさにこちらのQsicman(Musicmanの求人サイト)で、e-onkyo music(今回、ハイレゾの音楽サブスクQobuzと合併)が募集しているのを見たんです。「音楽配信の経験があります」ということで手を挙げました。
小室哲哉とともに始まったハイレゾ配信
――e-onkyo musicはハイレゾ・ダウンロードの先駆けですね。
祐成:小室哲哉さんがハイレゾ配信にすごく注目されてglobeのアルバムをハイレゾで配信しますというので、本当にそのアルバム1つだけを持ってスタートしたらしいです。
そこから色々とカタログを増やしていって、1番大きかったのは2012年7月にワーナーがハイレゾでカタログを解放してというところから。市場的にも大きくなって、新聞に取り上げられるようになったりと、大きくなっていきました。
――僕も同じ頃、連載の裏でハイレゾの仕事を手伝ってました。「iTunesの時代が終わるけど、ダウンロードはハイレゾになって、その後、ストリーミングもハイレゾ化していく」と予測して。e-onkyo musicさんも参考にさせていただきましたよ。世界的にも早かった。
祐成:オンキヨー自体がPCオーディオに取り組むのが早かったんですよね。そこで革新的な考え方を持った人が「CDのスペックに制限されることなく、いい音が聴ける」というのでハイレゾを始めたそうです。
Qobuzでアワードを受賞すると26ヵ国へ展開される
――そこから昨年10月、e-onkyo musicがQobuzと統合する。Qobuzの成り立ちはいかがでしょうか?
祐成:Qobuzは2007年12月、フランスでミュージシャンが2人で立ち上げたサービスなんです。
――ミュージシャン二人がQobuzを起業したのはなぜ?
祐成:彼らは、デジタルの世界でも音楽が評価されるために、音質に拘ったサービスをスタートさせました。アーティストの拘りを残さず音源として取り込み、それをリスナーと共有したいという思いがあったと聞いています。ですので、2009年には CDロスレス品質でストリーミング開始し 、2017年には世界初の、ハイレゾ品質(192Hz/24bit)でのストリーミングが開始されました。
――Apple Musicなどもハイレゾをやってますが、Qobuzの強みは?
祐成:Qobuzが1番強みにしているのが、人によるキュレーション。もう1つはオーディオ機器との連携です。オーディオ機器との連携というのは、クオリティの高い音源配信をしていく中で必須になってきます。
――まずQobuzのキュレーションの他社とは違う特徴、仕組みについて教えていただけますか?
祐成:世界26カ国に展開していて、それぞれの国と地域にスタッフがいるんですね。英語圏はここが見るとか、そういうのはあるんですけど各国に編集担当がいて、その編集周りはその人が責任を持ってやるというのがあります。
また、「ミュージックコミッティ」という、各テリトリーの編集者やミュージック担当が出席する定例ミーティングがあるのですが、ここではピックアップする作品や記事に関する話し合いの他に、「Qobuzissime(コバズィシム)」と呼ばれる、Qobuzのスタッフが持ち寄る推薦作品から選ばれるアワードについても話し合われます。
――世界各国の担当がおすすめ音楽を持ち寄って、アワードを選出。それをマガジン(Qobuzで閲覧できる)や、ダウンロード・ストア、ストリーミング・プレイヤーなどで各国語で世界展開するわけですね?
祐成:はい。デビュー作から2作目までの、いわゆるニューカマー系のアーティストの作品に絞られるんです。それをみんなで聴いて、投票制で決めるんです。投票で1番多かったのが、その回のQobuzissimeに選ばれて、これは世界中のQobuzで展開されるといったものになっています。
こういったことを、グローバルチームでコミュニケーションを取ると同時に、レーベルさんからも事前情報を得たりして、みんなで紹介するというのがあります。
――日本の音楽の海外展開において力強い味方になりそうですね。アジアでのQobuzの展開は?
祐成:アジアでは日本が最初です。ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、南米、そして日本へと広がってきています。
――Qobuzissimeで選ばれる作品には、何か傾向はありますか?
祐成:ジャンルで言うと、本当に多岐に渡っている感じですね。ハウス系のもの、クラブ系というものもあれば、インディーズ系も多い。クラシックやジャズも当然含まれます。メジャーやインディーズ、世間的な話題性など問わず、スタッフの感性に引っかかるかが最も重要です。
――邦楽アーティストがQobuzissimeを受賞したことは?
祐成:例えば、フランスのミュージック担当が見つけてきて、「これすごくいい」と言ってミュージックコミッティに持ってきたのが、Chizawa Qという横浜在住のハウス系のプロデューサーで、その作品がQobuzissimeに選ばれて世界で紹介されたというのがあります。また、近い将来日本から推薦したアーティストがQobuzissimeで取り上げられて、世界のQobuzで紹介されるように準備中です。
今はもう「高音質=ジャズ・クラシック」でもない
――今は音質重視だからクラシックファンやジャズファンが中心というわけでもないんですね?
祐成:クラシック専門のスタッフもいますが、多分オーディオ文化の違いもあって。
――日本ほど「ピュア・オーディオ=ジャズ・クラシック」という文化でもない?
祐成:そうなんです。たとえば、Qubuzには「オーディオパートナー」という世界中のオーディオメーカーさんに作ってもらったプレイリストがあるんですけど、本当にこれ、いろんなジャンル、ロックもあれば音の荒いニューウェーブもありみたいな。
――確かにエンジニアさんと話しても「ビリー・アイリッシュの音が素晴らしいんだよ」とか「K-POPも実はすごい音を作り込んでる」とか、ポップスのメインストリームでも高音質化がまた大事になっている印象があります。
祐成:エンジニアさんは最近の曲もリファレンスで使うのでよくご存知ですよね。ちょうど面白い例があって、先日あるオーディオメーカーさんの試聴室で米津玄師さんの曲をかけて下さったんです。今のアーティストは音の定位をものすごく細かく作り込んでいる。昔はステレオで「左右の定位」という感覚でしたが、今は空間全体を使って音を配置する。そういった制作手法の進化も起きています。
オーディオの試聴会でも最近は型に嵌った選曲をしなくなってきている。イギリスのジャズ要素が混ざったクラブミュージックとか。音楽の多様性に合わせて、オーディオの世界も変化してきているんです。
日本のアンビエントやニューエイジ、歌謡曲にも注目が集まっている
――日本の音楽業界からの反応は?
祐成:クオリティを大事にしているというところは、e-onkyo musicの頃から引き継いでいる部分なので、「その点は引き続きよろしくお願いします」という声をいただいています。
あと、レーベルやアーティストの皆さんからご期待いただいているのが、海外配信ですね。まだ準備を整えている段階で、海外配信をスタートしていないレーベルさんもあるんですが、その辺が整い次第、海外で配信できるようになっていく。
プレイリストについても、ヨーロッパのミュージック担当からは「日本のコンテンツでプレイリストをどんどん上げてくれ」と言われているんです。みんな何が出てくるんだ、どんなものが出てくるんだというのを、すごく楽しみにしていて。
――日本の音楽カタログが待望されていたんですね。
祐成:はい。特に印象的だったのが、イギリスの音楽ジャーナリストがアメリカのカントリーマネージャーにコンタクトを取ってきて、「Qobuz Japanが仲間に入ったって聞いたけど、日本の昔の歌謡曲がもっと聴けるようになるのか」と。
イギリスの音楽ジャーナリストが日本の昔の歌謡曲を探しているというのには驚きました。
シティポップとか、アンビエントとかニューエイジとか、おそらくあまり世に知られていないレベルで、海外の音楽ファンの人は日本の作品にすごく興味を持っているんです。
――「日本の音楽=アニメ」というわけでもないんですね。とはいえアニメ音楽の反応はどれくらい?
祐成:アニメ、アニソンはもうすごくて。
――やっぱりそうなんですね。
祐成:この間、11月にフランスに行った時に、直接フランス人から言われた話なんですけど、フランスで日本のアニメって、80年代くらいにキーパーソンがいらして、日本のアニメをどんどんフランス語に訳して放送するというのをずっとされていたんですよね。
もう80年代から日本のアニメが普通にテレビで見られるようになっていて、みんな日本のアニメって知らないものも結構あるらしいんです。フランスのアニメだと思って見ていたら、実は日本のアニメだったみたいな。例えばキャプテン翼はフランスでは『Olive et Tom』(オリーブとトム)という名前でした。
それが実は日本のアニメだと知って、「じゃあ日本語の主題歌はどうなってんだ」とかというので、日本の音楽を掘り始めるらしいんですよね。アニメはもう本当に、80年代から日本の文化輸出と文化遺産の最たるものです。
――レコーディング・アカデミー(米グラミー賞の主催団体)が「今年はJ-POPブームが来る」と予想していましたし、チャートも日本が強いロックや美メロが復活してきているので、楽しみです。
祐成:今は日本のコンテンツでプレイリストを作っていく作業を進めているところです。でも、ただアーティストと作品だけを紹介するんじゃなくて、もう一歩踏み込んだ、その後ろで、どういった人たちがこのサウンドを作ったかとか、そこまでマガジンで世界に紹介していきたい。
例えば、名録音と呼ばれる作品を手掛けてきたレコーディング・エンジニアや、マスタリング・エンジニア、それらを演奏で支えてきたスタジオ・ミュージシャンなど、そういう形の紹介は日本からしか発信できないと思うんです。
そういうのができると、海外のリスナーさんも、いろんな作品が「ここで繋がるのか」みたいな発見があると思います。
――Qobuzで読めるマガジンは各国語で世界展開?
祐成:はい。編集記事はローンチのタイミングで「YMOが関わったシティ・ポップの名盤たち」という記事を作ったんですが、これは公開時から24か国で展開されていて、みんな「こういう記事を待っていた」という反応がいろんな国からありました。久石譲さんのインタビューなども掲載しましたが、これも他の音楽サブスクにはないコンテンツの1つです。
Qobuzのルールとして、いろんな国で作ったプレイリストなり、編集コンテンツなりというのは、世界中でみんなで使えますというルールになっているんです。
――邦楽アーティストと何か進める予定は?
祐成:今年から来年度にかけて、邦楽アーティストと組んで何かできないかと考えています。他に、オーディオ専門誌との連携も進めていて、オンラインの方は専用のページを設けさせてもらって、ランキングを載せたり、連載記事を掲載(※関連リンク参照)しています。
――オーディオ誌の音楽紹介とハイレゾの聴き放題は相性がいいと思っていたので、楽しみにしています。これもDXなんでしょうね。
ハイレゾが手軽に楽しめる時代になった
――ではQobuzの2つ目の強み、オーディオ機器との連携について。推薦環境は?
祐成:1番いいのは、ネットワークプレイヤー、ストリーマーと呼ばれるものがあって、オーディオ機器なんですが、LAN端子が付いていて、LANケーブルを直接挿すんですよね。あとは、専用のアプリをQobuzと連携して、スマホやタブレットをリモコンとして使うイメージです。
――アプリはリモコンに徹すると動作が軽いし、スマホで何かをやっていると音に影響がでるということもなくなって、いいですね。
祐成:Bluetoothで音を飛ばしちゃうと結局ここで音が圧縮されちゃうので、アプリはただのリモコンとして使って、音源自体はネット経由で直接ストリーマーに入って、それをアンプからスピーカーやヘッドホンでという形が1番です。
もちろんスマホアプリで聴くこともできます。ただ、たとえばiPhoneで再生してBluetoothでイヤホンなどに飛ばすとなると、圧縮された音源として再生されてしまうんですね。
なおBluetoothでもaptX AdaptiveやLDACという規格で使うと、最大96kHz/24bitでも楽しめます。一部のAndroidスマホには搭載されています。
――AirPodsはProでもこのコーデックには対応してないからiPhoneとApple Musicでハイレゾを楽しんでいるつもりでも実は圧縮の音だったというケースはありそう。
祐成:ただ、今はあまり肩肘張らずとも、ハイレゾ・クオリティのポテンシャルを充分に発揮できる聴取環境というのは、結構カジュアルなものもあるんです。
――確かに。僕もiPhoneでハイレゾを聴く場合、今はUSB-C→イヤホン変換プラグと見た目が変わらないとても小さなDACがあるので、それで有線のイヤホンをつないで聴いてますが、そんなシンプルなのでも最大384kHz/32bitのハイレゾ特有の自然な音が充分、楽しめました(環境:iPhone 15Pro、SHURE SE215、radius RK-DA60C)。
Qobuzは音楽の深堀りが楽しい
――Qobuzを週末に聴き込んだのですが、定位しやすかったです。空間の広がりも自然で、癖がなくて「スタジオで聴く音っぽいな」と感じました(環境:ELAC BS243BE、NuForce IA-7、PS Audio NuWave)。
音質面での特徴について教えていただけますか?
祐成:基本的に音源に対して余計なことはしないんです。レーベルからお預かりする音源は配信用にエンコードする以外、音質に影響を与えるような編集はしません。他のサービスでよくあるボリュームのノーマライゼーションも使っていない。そういった点で、多くのお客様から音質に関して高い評価をいただいています。
――それでスタジオっぽかったのかもしれません。それとRoonとの連携がよかったです。読者のために説明すると、Roonは音楽ブラウジングに特化したアプリ。
祐成:日本だとRoonはQobuzの他に、KKBOX とも連携していますね。
――Roonは「知る人ぞ知るアプリ」という感じで僕も初めて使ったんですが、音楽を無限に掘っていける感じで、止まらない。特にクレジットのアレンジャーやプロデューサーからもソートが効くのがうれしかった。QobuzとRoonの組み合わせは、音楽業界の仕事ツールとしてもいいんじゃないかな。
―― プレイリストのインポート機能はありますか?
祐成:はい。Soundiizと提携しているので、これまでのプレイリストやお気に入りの曲を簡単に移行することができます(方法)。
Qobuzを通じて日本のアーティストを世界へ届けたい
――音楽業界全体の変化についてはどうお考えですか?
祐成:面白い動きがありますよね。例えば、MUSIC AWARDS JAPANという新しい賞の立ち上げ。既存の音楽賞が持っていた意味が薄れてきている中で、業界全体で新しい価値を作っていこうという。ごくわずかの審査員だけで決めるのではなく、アーティストを中心に総勢5000人以上の音楽関係者で投票する。ちょうどグラミー賞のような形を目指している。
そういった中で、Qobuzとしても何かできることがあるんじゃないかと。例えば、受賞作品に関連したプレイリストを作ったり、アーティストへのインタビューを世界に発信したり。音楽業界全体の活性化に貢献できればと思います。
――音楽ファンのみなさまへもメッセージをお願いします。
祐成:音楽の楽しみ方は本当に人それぞれだと思います。Qobuzは確かにハイレゾ、高音質が売りではありますが、決して音質だけにこだわってほしいわけではないんです。例えば、プレイリストを通じて新しいアーティストと出会ったり、マガジンを読んで音楽の背景を知ったり。
特に日本の音楽は、海外から見るとすごく魅力的なんです。シティポップひとつとっても、その成り立ちや制作背景には独特の物語がある。そういった日本の音楽文化の奥深さを、もっと多くの人に知ってもらえたらいいなと思います。
――オーディオ機器への投資を考えている人へのアドバイスは?
祐成:まずは自分の生活スタイルに合った方法で始めることをお勧めします。確かにネットワークプレイヤーやハイエンドのアンプ、スピーカーで聴くのは素晴らしい体験です。でも、例えばハイレゾ対応のイヤホンと、aptX AdaptiveやLDAC対応のスマートフォンの組み合わせでも、十分に高音質を楽しめます。
大切なのは、音楽をより深く楽しめる環境を、自分のペースで作っていくこと。急がなくていいんです。むしろ、まずは好きな音楽をたくさん聴いて、その中でより良い音で聴きたいと思ったら、少しずつグレードアップしていく。そんな楽しみ方もありだと思います。
――Qobuzのアワードやマガジンを通じて、日本の音楽が素晴らしい形で伝わっていくことを願っています。本日はお忙しいなか、ありがとうございました。
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