「シンクパワー、ソケッツ元役員・石川鉄男氏 代表・浦部浩司氏を被告当事者とする新たな訴訟を提起」というリリースを受けて冨田雅和氏に緊急インタビュー

シンクパワーは4月10日、同社の歌詞データ流用の疑いに関連し、ソケッツらを被告とした新たな訴訟を提起したことを発表した。
本訴訟の背景は2024年4月、石川鉄男氏による同社サーバーへの過去からの継続的な大量のアクセスログが発見されたが、これらのアクセスログ発見のタイミングから、現在進行中の裁判ではこの大量のログは証拠として使えないことにより、新たな訴訟を提訴したもの。
このリリースを受けてシンクパワー代表・冨田雅和氏に緊急インタビューをおこなった。
(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也)
──先日(4月10日)、新たな訴状を裁判所に提出した(以下「新訴」)というリリースを出されましたが、まずその背景から聞かせて下さい。
冨田:これまで、何度か取材をして頂きました現在の裁判(以下「現裁判」)は、2018年に事件発覚後、2度の裁判を経て、当社から2020年12月に、レコチョク、ソケッツを被告として訴えを起こした裁判で、現在も継続中ですが、昨年4月のインタビュー記事でも触れました通り、①当社保有の同期歌詞データ不正取得(不競法違反)と、②同期歌詞表示プログラム(SDK)の翻案(著作権、営業秘密の侵害)、つまり歌詞データのみならず、表示用のプログラムまで不正に利用しているという2つの要素を含んだ裁判なのですが、①については、約2年前までに約6千件にも及ぶ証拠を提出し、一旦審理が一区切りとなりました。 その後は主に②についての審理が現在も継続しているという状況にあります。
そのような中、昨年4月にインタビューをしていただいた直後のタイミングで、これまで証拠として提出は難しいと考えていた「直接証拠」、つまり当社歌詞データ用サーバーへの、ソケッツ元役員である「石川鉄男」氏による直接のアクセスログが奇跡的にも、大量に見つかり、現裁判でも5月には証拠として裁判所に提出する旨の申出をしました。
──「石川鉄男」氏とは、最近TIMMにも登壇した、あの石川氏でしょうか?
冨田: はい。 2013年7月から2021年10月までは少なくともソケッツの役職員であり、現裁判の中でも、技術責任者として自動生成システムの説明等で登場します。 最近は、ラジオにも出演しており、「AIx音楽x著作権」の専門家として露出が増えているように感じます。
──「奇跡的に見つかった」という意味は具体的にどういうことでしょうか?
冨田:当社は、多くの音楽配信サービス事業者(DSP)に対し、同期歌詞サービスを提供しているのみならず、当社独自のB2Cサービスを行っており、多くのユーザーに同期歌詞サービスを当社アプリ等で利用いただいているわけですが、悪意をもって、複数のユーザーになりすまし、当社アプリを経由して、当社データを不正取得されてしまえば、ユーザー数が膨大なだけに、その悪意を持ったユーザーを個別に特定することは、まず不可能と考えていました。 裁判上でも、このような可能性、手法についてしか触れることができず、「間接証拠」と呼ばれる、約6千件もの証拠をもって戦ってきたわけです。
ところが、当社サービスの中で、ほぼ役目が終わったアプリがあり、昨年そのアプリのクローズに向けて整理をしていた最中に、そのアプリで利用するAPIに対し、特定の複数のIPアドレスから、昨年春段階でも継続的に大量のアクセスがあること、その数が2017年春以降30万回を超える数であることを、当社技術メンバーが見つけたのです。そして、その特定の複数のIPアドレスを調べたところ、どれもソケッツの元役員「石川鉄男」氏のものであることが判明し、正に「奇跡的」にアクセスのログという「直接証拠」が見つかったのです。
──昨年春段階でも、ソケッツは、まだこのようなアクセスを継続していたのでしょうか?
冨田: はい。 実態をより明らかにする為に、しばらくの間はそのアプリは停止せず、ある一定の法則で歌詞データに独自に修正(以下「独自修正データ」)を加えていたところ、ソケッツが歌詞データを提供するレコチョクのタワレコミュージックや、LINE MUSICから、その特徴である「独自修正データ」がまとまった量見つかり、追加の証拠として提出をしました。そして、昨年5月末をもって、当社の該当アプリは閉鎖しました。
──ソケッツは、レコチョクのみならず、LINE MUSICにも同期歌詞データを提供しているのですね。 ここまでの経緯を聞く限り、「直接証拠」をもって、現裁判は一気にシンクパワーに有利になるように思いますが、どうして今回「新訴」の手続きを行ったのでしょうか?
冨田: 前述の通り、現裁判では、①の審議が約2年前の時点で一旦区切りがついていたため、昨年春に見つかった大量のログについては、「時機に後れた攻撃方法」に当たると位置づけられ、現裁判では却下されてしまいました。 つまり、この証拠が現裁判で使えないために、これらの「直接証拠」を冒頭に掲げた裁判を新たに起こした、という流れになっています。
──意図的に遅れて証拠を提出したわけでもないのに、そういう位置づけになってしまうのですね。
冨田: そうなんです。 当社は、意図的に証拠提出を遅らせたわけではなく、このタイミングで奇跡的に発見することができたものですので不満は残るところです。
──つまり、決定的な証拠が見つかったにも関わらず、現在の裁判では、その証拠が見つかったタイミングが遅かったことを理由に、証拠として採用してもらえなかったため、その決定的な証拠に基づき、新たに訴えを起こした、ということですね?
冨田: はい。
──話が前後しますが、先日、今回の新訴に先立ち、現裁判での被告であったレコチョクとの和解が成立したとのリリース(2月19日公開)があり、また先日御社がレコチョク向けにサービスを再開したというリリース(4月9日公開)もあり、大変驚きました。 かつて共同被告として戦ってきたレコチョクとソケッツが“仲間割れ”した、ということなのでしょうか? そして、それは先ほどお話頂いたソケッツによるアクセスログが昨年発見されたことが、今回の和解に向けての決定的背景になったのでしょうか?
冨田: 既にミュージックマンさんにも掲載頂いた和解のリリース文にもある通り、レコチョクは、現裁判が長期にわたり継続していることに加え、ソケッツの元役員「石川鉄男」氏によるシンクパワーのAPIへのアクセスログの提出の申出をきっかけとして、昨年末、当社に対し、和解の申し入れがありましたので2社の関係に微妙な変化が起きたとは認識していますが、詳細はわかりません。ただ、レコチョクの体制が代替わりし、筆頭株主が代わったことがこのような経営判断の一つの要素としてはあるかもしれません。
またレコチョクからの今回の和解に向けての提案書の中に、ソケッツがシンクパワーのAPIに大量にアクセスをしていたことが判明し、ソケッツの同期歌詞データサービスへの信頼性に対する懸念が生じたため、ソケッツとの契約を終了し、当社と再契約する旨が含まれていたことは、当社が和解を受ける上での大きな要素となりました。
──これまでのインタビューでも説明がありましたが、現裁判の中において、シンクパワーは数多くの証拠を示して同期歌詞データの流用について主張してきており、レコチョクはその時点でソケッツに対し徹底的に事実関係の確認をしておけばもっと早く和解の可能性もあったのではないのでしょうか?
冨田: 私も全く同感です。 ただレコチョクとしては、歌詞サービス以外にもソケッツとは契約があったり、またソケッツが主張する自動生成システムなるものが、特許申請を控えていたこともあり、詳細確認までは行えず、ソケッツを信頼するという選択だったようですが、さすがに大量のアクセスログが発見されたことで、ソケッツとの契約を解消してシンクパワーと再契約するという内容の和解への舵を切ったという理解をしています。
──レコチョクとの和解のリリースを正面から受けとめるなら、レコチョクは明らかに被害者であると思うのですが、レコチョクからソケッツに対する提訴などは出されていないようです。この辺りはレコチョクに直接問うべきことと考え取材を申し込んだのですが、「現時点においては発表したリリースの内容が全てで、それ以上お話しできることはない」との回答をいただいたことを報告しておきたいと思います。
さらにここまでの直接的な新証拠が発見されたにもかかわらず、ソケッツは、まだ係争を続けるという意向を先日の和解リリース当日、自社のリリースとして発表されています。その中では、シンクパワーのサーバーへのアクセスを認めながらも「その内容や目的につき、見解の相違があり今後裁判を通じて明らかにしてまいります」との記載があります。 これはどういう意味合いになるのでしょうか? この事実をもって、なぜソケッツは、潔く罪を認めないのでしょうか?私の目には、まだこの先も悪あがきを続けるつもりなのかと、残念に思います。
冨田: ソケッツのリリースについては、正直何を考えているのか理解に苦しみますが、ただ裁判は継続中ですので、こちらからのコメントは差し控えたいと思います。
──今後の裁判の流れはどうなると考えていますか?
冨田: まず現裁判については、現在継続中のSDKの議論がそろそろひと段落つくかと思いますので、そう遠くない時期に結審に向かう流れになると思います。 昨年春見つかったログが現裁判では証拠として扱ってもらえないため、判決がどうなるかは何ともいえませんが、「直接証拠」が採用されないとしても、同期歌詞データの不正取得を示す極めて大量の「間接証拠」はこれまでに提出し、証拠調べも終っていますから、裁判所には、公正で合理的な判断を切にお願いしたいと思っています。また、②のSDKの著作権侵害・営業秘密侵害についてもしっかり証拠を提出し、証拠調べをしていただいていますから、こちらについても公正で合理的な判断を期待しています。
──最初からずっとこの争いを見てきた立場として、一刻も早く、全面的に解決することを陰ながらお祈りします。
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