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Spotify、ポッドキャスト強化は2020年も止まらない。広告収入、リスナー急増のポッドキャストで、どこまで音楽との融合は可能か

コラム All Digital Music

サブスクリプション型の音楽ストリーミング、Spotifyは、急成長が続くポッドキャスト事業の強化を目指して、新たな人材採用に成功した。

米大手政治メディア、ハフポスト(元ハフィントンポスト)で編集長を努めたリディア・ポルグリーン(Lydia Polgreen) は、3月末に同社を去り、Spotifyが買収したポッドキャスト制作スタジオGimlet Mediaのコンテンツ統括に就任することを明らかにした。

長年のオーディオコンテンツ好きというポルグリーンは、Gimlet Mediaで「戦略プランおよびクリエイティブ・ビジョンの策定」を担当するという。

ポルグリーンは2016年に、ハフポストUSの初代編集長で共同創業者のアリアナ・ハフィントンの後任として、2代目編集長に就任した。それ以前は、ニューヨーク・タイムズでエディトリアル・ディレクターなどを努めていた。ハフポストおよび親会社のVerizon Mediaは、ポルグリーンの後任を発表していない。

米国ニューヨークを拠点にするGimlet Mediaは、オリジナル・ポッドキャスト番組の「Crimetown」や「The Startup」「Reply All」の制作で成功した、ポッドキャスト専門のスタジオで、ウォール・ストリート・ジャーナルやニューヨーク・マガジンなど大手メディアとの共同制作でポッドキャスト番組を配信している。

2019年にSpotifyによって買収された一連のポッドキャスト企業の中の一つだった。

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ポッドキャスト広告売上で16億円以上

2020年に入ってからもSpotifyのポッドキャスト事業強化は止まらない。

2月には多数のポッドキャスト番組を制作する米スポーツメディア、The Ringerを買収した。The Ringerではスポーツを軸にカルチャーやエンタテインメントまで、30近くの多種多様なポッドキャスト番組やインタビュー番組を配信している。また、オンラインメディアの運営や、動画制作スタジオ、ドキュメンタリー映像制作、出版事業も手掛けている。

オンラインスポーツメディアとして始まったThe Ringerは近年、ポッドキャスト事業が収益の大きな部分を占め始めている。

創業者でポッドキャスター、スポーツジャーナリストのビル・シモンズは昨年、「The Ringerはポッドキャストやメディア事業の広告収入で黒字化に成功している」と発言している。

The Ringerではポッドキャストの広告売上では1500万ドル(約16億円)以上をあげている。2018年Q4の時点で、ポッドキャスト番組のダウンロード数は毎月3500万以上と好調なアクセス数からさらなる収益化が期待できる。

フォーブスが発表した、2019年のアメリカのポッドキャスターの推定収益ランキングがある。2020年現時点におけるポッドキャストのビジネスの規模が見えてくるかと思う。

  1. ジョー・ローガン:3000万ドル(約32億円)『The Joe Rogan Experience』
  2. カレン・キルガリフ / ジョージア・ハードスターク:1500万ドル(約16億円)『My Favorite Murder』
  3. デイヴ・ラムジー:1000万ドル(約11億円)『The Dave Ramsey Show』
  4. ダックス・シェパード:900万ドル(約10億円)『Armchair Expert』
  5. ビル・シモンズ:700万ドル(約7.6億円)『The Bill Simmons Podcast』

via Forbes

ニュース系ポッドキャストの魅力

ポルグリーンの採用を巡り、SpotifyとGimlet Mediaは、ニュース番組寄りなポッドキャスト制作や、調査報道を軸にしたオーディオドキュメンタリー番組を増やす可能性が高まってきた。

国際的なニュースメディアでの経歴が長く、ジャーナリストとして業界で高く評価されてきたポルグリーン。さらに、ビル・シモンズもThe Ringer設立以前は、ディズニー傘下の大手スポーツメディア企業ESPNで、オリジナルドキュメンタリーやインタビュー番組、メディア運営に携わってきた経歴がある。

ジャーナリストとしての専門性や、大手メディアでの経験豊富な人材獲得と、ニュース寄りなポッドキャスト番組制作を狙うSpotifyをつなげると、ポルグリーンもシモンズなどこれ以上歓迎すべき人材は他にはいないだろう。

Spotifyがポッドキャストを強化する理由は幾つかある。大きな理由は、ポッドキャスト配信プラットフォームとしてポッドキャスターの番組が多く揃えられれば、新規利用者の獲得に繋がりやすくなるからだ。ポッドキャスト利用が毎日のように続けば、アプリの利用時間も伸び、音楽もポッドキャストもSpotifyアプリ内で再生できれば、離脱率を低く抑えられる。その結果、サービスの有料利用者へのコンバージョンに繋げやすくできる。

もう一つの理由は、コンテンツのコストを低く抑えられることだ。音楽ストリーミングビジネスで成長し続けるためには、作品を手掛けるアーティストやレコード会社、権利者に分配するロイヤリティ額が、スケールと比例して莫大に増加していくため、Spotifyでも常に巨額のコスト獲得費が必要とされる。

一方でポッドキャストには現状ではその心配が無い。ポッドキャスターやスタジオはストリーミングサービスから再生やダウンロードに応じたロイヤリティを受け取る仕組みがない。そのため、Spotifyは支出を音楽に比べて圧倒的に低く抑えることができる。

そして、定期配信するポッドキャスターやスタジオが増えれば、Spotifyは自社の多機能な音声広告ソリューションを展開する機会が増えていく。これはSpotifyが音声プラットフォームとして差別化していくポイントとして非常に大きく、自社の広告収入を伸ばすことができる。

ジャーナリストや専門家など個性の強いパーソナリティによるニュース番組や解説番組が人気で、かつビジネス的にも広告を売りやすいのは、アメリカのテレビやラジオでもすでに実証されてきた。Spotifyで増えれば、同社は広告売上も、新規利用者も、アプリ利用時間も伸ばせるだろう。ビジネスや国際情勢、政治、スポーツ、エンタテインメント、カルチャーなど、専門的なトーク番組は一般的な利用者にも聴かれやすいし、時事性にも富んだ番組にしやすい。今後Spotify上では人気のジャンルになっていくだろう。

とは言え、現状でSpotifyのポッドキャストで人気あるジャンルは「コメディ」になっている。

ポッドキャストを探したり、人気の番組を見つけるアプローチでは、Spotifyが得意とするアルゴリズムでのレコメンデーションが、ポッドキャストでも既に行われている。
ポッドキャスト用のプレイリスト「Your Daily Podcast」など、音声コンテンツを軸にしたプレイリストは、すでにアプリ内で展開が進んでいる。これは音楽の「Discover Weekly」や「Daily Mix」と同じアルゴリズム的なアプローチに基づいている。

問われるポッドキャストと音楽との相乗効果

ポッドキャストからマネタイズする仕組みは、既に数多く存在する。

しかし、レコード会社やアーティストの収益源として考えた場合、ポッドキャストの広告収入やサブスクリプションでは、ストリーミングやCD、ライブビジネスからの売上には到底及ばないのが現状。またポッドキャストを起点にバイラルヒットが生まれ、世界的ヒットに繋がるという例も現在では存在しない。需要が高まるポッドキャストにおいて「音楽作品」の収益分配を行う機能と仕組みは早急に求められる。

ビジネス面に目を向けると、音楽業界とポッドキャスト業界の連携は進んでいる。ポッドキャストを使った新しいビジネスモデルの構築や、アーティストとの今までにない施策が活発に進んでいる。これらの取り組みや仕組みは、アーティストやレコード会社にとって、新たな収益源を確保することで有効的でもある。

実際、筆者の近くでもポッドキャストに関する取り組みが増えている

知り合いが教えてくれたのだが、ワーナーミュージックUKは、昨年末にリリースしたピンク・フロイドのコンピレーション・アルバム『The Later Years: 1987–2019』の施策の一貫で、メンバーのデヴィッド・ギルモアとBBCラジオのジャーナリスト、Matt Everittによるインタビューポッドキャストを、あらゆるプラットフォームで配信した。

インディーレーベルの「Lakeshore Records」は昨年、トルークライム(ノンフィクションの犯罪ルポタージュのジャンル)ポッドキャストで人気のスタジオ「Tenderfoot TV」と提携し、ポッドキャストのオリジナル・サウンドトラックをリリースする。

Lakeshore Recordsは、Netflixオリジナル・シリーズ『Stranger Things』をはじめ、ゾンビドラマの『ウォーキングデッド』や、映画『ムーンライト』、ゲーム『レッド・デッド・リデンプション2』のサントラをリリースしてきた。

アメリカでラジオ型ストリーミングサービスから使用料を徴収し分配する非営利団体SoundExchangeは、ポッドキャスト企業やポッドキャスター向けに、楽曲のマーケットプレイスの展開を2020年から始める。

サービスでは、レーベルおよび音楽出版社が権利を持つ楽曲をポッドキャスト番組で使用するため、グローバルライセンスをクリアした楽曲が揃う。アーティストやレーベルにはポッドキャストの楽曲使用料が分配されるという。ポッドキャストにおける楽曲使用と著作権の許諾という、存在しないライツ管理の仕組みを作り、アーティストや作曲家の新たな収益源を増やそうとする試みでもある。

ポッドキャスト業界と音楽業界を繋ぐ新しいライセンスモデルの仕組み作りはすでに始まっている。まずは、ポッドキャストの仕組みや、プラットフォームのディストリビューション機能について知っておくのは、予備知識として大切だろう。

jaykogami 記事提供元All Digital Music
Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
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